新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

まだまだ日本の不動産には「余力」がある

メディアでは、すでに平成バブル時に匹敵するほどの値上がりを見せている日本の不動産の現状について、「上がりすぎた」「もうバブルが弾けるのではないか」といった論調が強くなっています。

 

たしかに、不動産事業を実際に営む私からみても、最近の都内における不動産取引価格は「おいおい、大丈夫かよ」といった内容のものが多くなっています。都内ではキャップレートが3%前半などという事例が珍しくなくなってきています。長く不動産投資に関わってきた私から見ても、なにやら最近の取引は壮大なチキンレースが行なわれているようにも映ります。

 

最後に誰かが「ババ」を摑んでこのマネーゲームは終了する。(※写真はイメージです/PIXTA)
最後に誰かが「ババ」を摑んでこのマネーゲームは終了する。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

一方で、海外投資家による日本の不動産買いにはブレーキがかかるどころか「加速」しているというのは、いったいどういうことでしょうか。

 

彼らから見れば、まだまだ日本の不動産には「余力」があるのです。「余力」という意味は、日本がこれから世界的にも大いに成長するだろうとか、オフィスやマンションの需要が大量に発生するだろうなどということではありません。

 

彼らが見ているのは「イールドギャップ」というやつです。イールドギャップとは、投資物件の利回りと、長期金利の差のことです。不動産を買う場合、巨額のお金が必要になりますから、普通はお金を調達してきて投資を行ないます。つまり借入金を調達します。

 

現在日本の金利は、政府日銀の大幅な金融緩和政策の恩恵で非常に低いレートでの調達が可能となっています。また、国内では最も安全な債券といわれる日本国債のレートは、10年物利回りで約0.05%という「豆粒」のような水準です。

 

投資の世界では、自分の投資しようと考えている対象の利回りが、調達金利や世の中で最も安全性の高い金融商品の利回りに比べてどのくらい高いレートであるかを、投資する際のリスク判断材料としています。

 

この理屈でいえば、たとえば東京のオフィスビルを利回り3%で買ったとしても、日本での調達レートはおそらく1%以下。また日本国債のレートと比較すれば2.95%ものリスクプレミアムが載っていると判断するのです。リスクプレミアムとは、国債に比べたリスクと言い換えてもよいでしょう。また調達金利との差額も2%以上の差があると判断して、「この投資は安全、大丈夫」とするのです。

 

このリスクプレミアムの幅は、その時々の世界情勢や今後の見通しに応じて「伸びたり縮んだり」します。現在はどちらかといえばリスクプレミアムに対してポジティブ(積極的)=リスクプレミアムは小さくてよい、という状態にあるのが、日本に対する彼らの見方です。

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