新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

投資マネーが都心不動産価格を支えている

私は日本における大型オフィスビル初の不動産証券化案件を経験した一人です。2000年初頭、当時私が勤務していた三井不動産とアメリカの生命保険会社AIGは共同で東京虎ノ門にある新日鉱ビル(現・虎ノ門ツインビルディング)を買収しましたが、この買収の際に使われたのが、不動産証券化のツールでした。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

今でも印象に残っているのはこのディール(取引)の際、三井不動産側の私たちは虎ノ門という立地のすばらしさや、建物の設備仕様、管理状況の良さなどに注目し、いわば「立地と建物のすばらしさ」という不動産の基本中の基本を高く評価して、このビルを早くわが物にしたいという一途な想いで仕事をしていたのに比べ、ニューヨークからやってくるAIGの幹部たちは、会議の席上でとにかく利回り、数字ばかりを議論していたことです。

 

物件を尊ぶ不動産屋の三井と、利回りという数字のみを判断根拠とするAIGのドライな姿勢の差を今も鮮明に思い出すことができます。世界共通ルールにしか興味がないAIGと、相変わらずドメスティックな虎ノ門のビルという評価に酔いしれる私たちの違い、といってもよいかもしれません。

 

今回の不動産の値上がりは、まさにこの金融資本主義に裏づけられた世界の投資マネーが参戦していることが、ポイントです。そして、ここが一番重要なのですが、彼らにとっては日本の人口減少だとか年齢構成の高齢化というのは「さして問題にはならない」程度の事象にすぎない、ということです。

 

もちろん中長期的に日本が衰退するのではないかという危惧は、彼らにだってあります。しかし、彼らにとって重要なのは、今、この日本で「なんぼ稼げるか」であり、投資するにあたって日本はしっかりとした制度整備ができていて、投資対象として安全かどうかであり、最終的には投資にあたっての「投資利回り」、それは物件の運用利回りのみならず、最終出口にあたっての売却価格を含めた投資利回りとして「買い」であるかどうかを見極めて投資を行なっているにすぎない、ということなのです。

 

このように整理してみると、現在三大都市や地方四市、そして一部のリゾート地だけを席巻している投資マネーの流れを理解できると思います。

 

彼らにとって日本のオフィスや住宅に対する「実需」なんて、所詮数年という時間軸での投資にすぎない限りにおいて、「関係ナッシング」なのです。

 

海外投資家による不動産購入は、ここにきて加速しています。都市未来総合研究所の調べによれば、2017年の海外投資家による日本の不動産取得額は1兆1000億円に及び、対前年比3倍の伸びを記録しました。不動産取得額に占める海外投資家の割合も24%という高さです。

 

彼らから見れば、日本の大都市は都市による違いは関係なく、とりあえず安心安全な投資エリアと映っているのかもしれません。

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不動産で知る日本のこれから

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牧野 知弘

祥伝社新書

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業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

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牧野 知弘

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