新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

ワンルームマンションは「節税」目的の不動産投資

ワンルームマンションオーナーは、もともと「節税」が目的です。建物の減価償却や借入金の金利、管理に伴う諸費用などを「経費」として落として、不動産所得の赤字をわざわざ創出して、節税をしようなどというひねくれた動機で買っていますので、管理などは専門会社に任せきりです。不動産についても実はさして関心がない、などというオーナーも多いのです。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

さて、こんな悠々自適に見える不動産オーナーにも、今は「格差」がつき始めています。原因は人口の減少と高齢化、それに伴う経済活動の活力の低下です。


 
人口の減少と高齢化は、1995年までの日本の黄金時代には大量に存在した「若者」の激減を意味しています。以前はアパートといえば、学生かまたは結婚前の若者が住む住居でした。しかし、今では高齢者がその割合を高めています。若者はまだ将来に夢や希望があります。アパートは一生懸命勉強し、働いてやがては新しい住居にステップアップして去っていく際の「仮の棲家」でした。

 

ところが今、アパートに入居するような高齢者は、身寄りのない、経済力に乏しい 高齢者たちが中心です。当然入れ替わりは少なく「終の棲家」と化しています。家賃負担には限界があります。

 

その一方で、相変わらず相続対策の名目で、エリア内での需給バランスなど一切考慮せずに、新しいアパートは続々建設されます。空室が増え、家賃が下がる、加えてオーナーは高齢化する、借入金の残債は残ったままという図式になっているのです。

 

中小ビルも然りです。大企業中心の社会になり、オフィスでの仕事がどんどん高度化していくにつれ、テナントがオーナーに要求する水準は高くなる一方です。耐震性はもとより、BCP( Business Continuity Planning)などで謳われる「事業継続性」を 大震災などの災害時に保証させるような要求が出るに至っては、中小オフィスビルオーナーにはもはやお手上げです。自らの高齢化はもちろん、建物自体も築40年あるいは50年を経過して老朽化が著しく、建て替えや大規模修繕に費やす費用にも事欠くありさまに陥っています。

 

平成バブル時に「節税」目的で購入したワンルームマンションも、その後続々と建てられる新しいワンルームマンションにテナントを奪われる構図は、アパートと同じです。平成バブル時にワンルームを買ったサラリーマンの多くは、すでに定年退職をしています。所得税の節税が大きな目的だったはずですが、もはや損益通算(所得税計算の際に、不動産所得などの金額に損失が生じた場合に、その額を他の所得の金額から控除すること)を行なうはずの給与所得もない状態。空室を防ぐために高齢者や外国人にも貸さざるをえない事態となっています。

 

このように95年以降、日本の抱える構造的問題は広く不動産オーナーにも影響を及ぼし始めています。常に潤沢な資金でテナント側のニーズの変化に対応できるデベロッパーなどの大企業は不動産オーナーとして生き残り、個人や中小の不動産オーナーはその存続に苦しむ「二極化」の時代を迎えているのが、現在なのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

 

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