なぜ介護職員は入居者の死去で退職まで考えてしまうのか?

いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

職員と入居者には「疑似家族関係」が成立?

介護職員が退職をする動機として意外に多いのが、入居者のご逝去です。私が、介護職員だった時にもこんな話を多く耳にしました。

 

介護職員「もうヤダ。こんなホーム辞めてやる。でも、受け持ちの入居者から、私を看取るまでは、あなたはこのホームを辞めないでね、って言われているの……」。ちなみに、この話をしていた職員は、本当に入居者が亡くなった1カ月後にホームを退職していきました。

 

老人ホームなど居住系の介護施設に限った話だと思いますが、介護職員と入居者の間には微妙な関係が構築されるケースがあります。私はそれを「疑似家族関係が成立している」と考えています。実際に、入居者の男性が自身の財産を身の回りの世話をしてくれた女性介護職員に譲るという遺言書を残し、その後、相続人と揉めた話を聞いたことがあります。

 

介護職員と入居者の間には微妙な関係が構築されるケースがある。(※写真はイメージです/PIXTA)
介護職員と入居者の間には微妙な関係が構築されるケースがある。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

東京都町田市で有名な電気屋の「でんかのヤマグチ」のキャッチフレーズは、「遠くの子供より近くのヤマグチ」と言うそうです。いつ訪ねてくるのかわからない実の子供よりも、電話一本で、いつでもどこにでもすぐに駆けつけてくれるヤマグチさんの社員のほうがよっぽど当てになる、というのが町田市の高齢者の合言葉になっているそうです。

 

毎日顔を合わせて、半ば一緒に住んでいるような老人ホームの介護職員の場合、ヤマグチさんと同じような現象が起きていると私は思います。

 

「私をあなたは責任持って最後まで看取ってね」
「俺が死ぬまでは、お前はこのホームを辞めてはならない」
「あなたがいるから、私はこのホームにいるのよ」

 

などと言われた介護職員の多くは、たとえホーム運営や運営企業自体に対し疑義が生じていたとしても、さらに、自分の考えている介護がここにいてはできないと考えたとしても、この約束を履行するまでは、我慢してホームで働き続けなければならないという思いを強く持つものだと思います。

 

多くの介護職員は、会社員です。老人ホームには、非正規雇用の社員も多くいますが、正社員も一定数存在します。したがって当然転勤もあります。しかし、介護職員が素直に転勤に応じることは、まずありません。中には、転勤の内示を出すと「退職届」が出てくるケースも、珍しいことではありません。

 

ちなみに、介護業界の場合、転勤といっても自宅の転居を伴うような転勤はほとんどなく、隣りの駅前にあるホームとか、隣りの町にあるホームとか、最寄り駅は同じでも、バスに乗り継ぐ必要がある、といった程度の違いの転勤です。

株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

(株)ASFON TRUST NETWORK常務取締役。1965年神奈川県生まれ。日本大学卒業後、不動産開発会社勤務を経て日本シルバーサービスに入社。介護付き有料老人ホーム「桜湯園」で介護職、施設長、施設開発企画業務に従事する。2006年に退職後、同社の元社員らと有料老人ホームのコンサルティング会社ASFONを設立。2010年、有料老人ホーム等の紹介センター大手「みんかい」をグループ化し、入居者ニーズに合った老人ホームの紹介に加えて、首都圏を中心に複数のホームで運営コンサルティングを行っている。老人ホームの現状と課題を知り尽くし、数多くの講演を通じて、施設の真の姿を伝え続けている。

著者紹介

連載実は知らない老人ホームの真実

誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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