いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

老人ホームは決して万能ではない

老人ホームの機能とは、家族の代わりに介護職員が24時間365日、途切れることなく、継続して様子を見続けてくれる環境を保有している住宅ということです。それ以上のこと、つまりは医療的な処置などを期待するべきではありません。

 

私がかつて施設長として勤務していた時にも、よくご家族が勘違いして、医療的な処置を老人ホームに対し、当たり前に求めてきたことがありました。今は、機器の進歩と技術革新によって、それほど大きな障害にはなっていないでしょうが、私が施設長だった時代は、IVH(中心静脈栄養)の受け入れには、どこの老人ホームもかなり慎重になっていました。

 

病院では「命を救う」という行為がすべてに優先される。(※写真はイメージです/PIXTA)
病院では「命を救う」という行為がすべてに優先される。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

多くの老人ホームに勤務している看護師は、IVHの受け入れには消極的であり、特に認知症の高齢者の場合、IVHはまず受け入れないという方針(会社の方針というよりもホームの方針であり、その多くはホームで働いている看護師の方針や考え方に影響を受けることになります)があったことを思い出します。当時の多くの看護師の考えは、認知症の高齢者が誤って、静脈内に埋め込んでいる栄養を送りこむチューブを自分で引き抜いてしまった場合、大量の血液が静脈からあふれだし、老人ホームの能力では止血の方法が、どうすることもできないというのが、その理由でした。つまり、本人の命の保証ができない、ということです。

 

しかも、当時は、老人ホームでの身体拘束が全面的に禁止され始めた頃だったので、なおさら看護師はナーバスになっていました。病院をはじめとする医療現場では「命を救う」という行為がすべてに優先される重要事項なので、命を守るためには、身体拘束も止む無し、個人のプライバシーなどもお構い無し、という状況も多々ありました。

 

しかし、介護現場ではそうもいかず、認知症の高齢者の手足をベッドに縛りつけて身体の自由を奪うことでその人の命を守る、という選択肢は許されないという雰囲気でした。そして、なるべくそうならないように介護職員が身を粉にして働かなければならない、という風潮が蔓延し、その結果、介護職員が疲弊、徐々に職場から介護職員が減っていき始めたのでした。

 

通常の老人ホームと自宅の機能は、同じです。違うのは、あなたに代わって、24時間介護職員がホーム内に常駐し、万一の時は救急車を呼び、駆けつけた救急隊員に今までの状態や本人の既往歴、つい今しがたの様子などを伝えてくれるということだけなのです。そこのあたりを十分に理解した上で老人ホームに入居し、ホームを活用していかなければならないと思います。

 

このような話を聞くと、老人ホームって「それほど安心ではないのね」と思う読者も多くいらっしゃるはずです。さらに、それなら病院にずっと入院していれば安心なのでは?と思う方もいらっしゃるでしょう。私の経験を記しておきたいと思います。

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