病弱な両親の老後を看取った長女に、父親が継がせた都心一等地の自宅。それが原因で妹・弟と疎遠になりましたが、子のない夫婦は妻が相続した自宅で静かに生活してきました。しかし、妻が施設に入所したところ、疎遠だった妹が日参し「自宅は私が相続する、義兄に渡すのはおかしい」と詰め寄ります。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
同居に感謝した妻の父親が、遺言書を残してくれたが…
今回の相談者は70代のH部さんです。H部さんが暮らす自宅は東京の高級住宅地にあり、最寄駅から徒歩8分程度、区画整理された閑静な住宅街で、人気の高い地域です。もとはH部さんの妻の父親の名義でしたが、長女である妻が相続しました。
妻は結婚してからも、体の弱い自分の両親を気にかけており、H部さん夫婦が妻の両親の家に同居するかたちで面倒を看続け、その後、両親を見送りました。最近は、妻の持病が悪化して施設に入所することになったため、現在はH部さんがひとりで生活しています。
H部さん夫婦は子どもに恵まれず、2人で支え合ってきました。妻の妹と弟は早くから実家を離れ、隣県に暮らしていることもあり、両親の生前もほとんど顔を見せませんでした。両親が亡くなって以降はさらに疎遠になり、冠婚葬祭に呼ばれると義務的に顔を見せるといった程度のつきあいになっていました。
じつは、きょうだいと疎遠になってしまったのには理由があります。H部さんの妻の両親は、母親、父親の順で亡くなりましたが、父親は生前に自筆の遺言書を作成しており、そこには「財産は面倒を見てもらっている長女にすべてを相続させる。ほかの2人は放棄するように」と、ぶっきらぼうに書かれていたのです。
妹と弟は遺言の内容を読んで激怒し、「親の財産なんか一切いらない!」といったきり、本当に財産を放棄し、以降のつきあいはほぼ断絶してしまったのでした。
その後、H部さん夫婦も高齢になり、病弱な妻は介護が必要となりました。H部さん自身は妻よりも年上ながら足腰も丈夫で元気ですが、妻は持病が悪化し、歩行が困難になったことから、H部さん1人で介護することがむずかしくなってきました。そこで施設に入所し、妻は身の回りの世話を受けながら生活をするようになったのです。
●相続関係者
被相続人:妻(無職)
相続人: 3人(夫・子どもなし、妻の妹と弟)
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続実務士発!みんなが悩んでいる「相続問題」の実例