夫と後妻と次男夫婦、末永く楽しく同居する予定が…
今回の相談者は70代のK泉さんです。K泉さんは大学卒業後、就職してすぐに結婚し、20代で3人の男の子に恵まれました。しかし妻は体が弱く、末っ子が幼稚園のときに亡くなってしまいました。
その後、K泉さんは会社の同僚と再婚。後妻は幼かった3人の子どもたちを立派に育て上げてくれましたが、自分の子どもには恵まれませんでした。
K泉さんが定年を迎えたのを機に、近くに住む次男夫婦と同居の話がまとまりました。広い場所を求め、実家を売却して住み替えることにしました。その際、同居する息子夫婦にも権利があった方がいいと考えたので、新しく購入した土地の権利は、K泉さんと後妻と次男の3人で各3分の1ずつとしました。建物は、次男の妻が職場から借入をして50分の37、次男が50分の10、K泉さんが残りの50分の3としました。
このような流れで、住人それぞれの持ち分がある4人共有の自宅が実現しました。
ところが、同居生活も落ち着いてきたところ、K泉さんの妻が突然亡くなってしまいました。妻の財産は、相続税がかかるほどではなかったため、土地の名義だけを変えればすむとK泉さんは考えていました。ところが、実子のない妻の相続人には、妻の兄弟姉妹も含まれ、4分の1の権利があると知って愕然としました。
K泉さんは仕方なく、ほとんど会ったこともない妻の兄弟姉妹の家を訪問し、「妻の土地の持分は私が相続したいので、相続放棄してほしい」と頭を下げて回りました。
熱心な説明の甲斐があってか、無事に全員から印鑑をもらい、妻の土地の持分を自分名義に変えることができましたが、この一件で気力体力を消耗したK泉さんは、こんな思いをするのはもう懲り懲りでした。
遺言作成者:K泉T一郎さん・70代
推定相続人:長男(行方不明)、次男、三男
行方不明の長男は心配だが、次男に迷惑をかけたくない
実子がいない妻でしたが、遺言で「すべて夫に相続させる」と書いておけば問題はありませんでした。とはいえ、まだ還暦を過ぎたばかりで、しかも急に亡くなってしまったため、遺言を残すという発想は、そもそもなかったのです。
K泉さんはこの件から、自分の相続のときも大変なことになると思い至りました。なぜなら、K泉さんの長男は20年以上前に家を飛び出して以降音信不通となっており、いまなお所在がわからないからです。もちろん妻の葬儀も知らせる術がなく、長男の参列はかないませんでした。
本来であれば、失踪宣告をするべきところなのかもしれませんが、K泉さんも亡き妻も思い切ることができず、いつか帰ってくるのではないかとずっと待ち続けていたのです。
しかし現実的な問題として、このまま長男の一件を放置してしまうと、自分が亡くなって相続が発生した際、同居して世話をかけている次男夫婦が大変な思いをするのは明らかです。そこで筆者の事務所に相談に見えました。