
60~70代の4人兄弟に降りかかる相続問題。早世した父に代わって、弟たちと母親の生活を支えてきた長男が「このまま住み慣れた自宅で暮らしたい」と願うのは贅沢なのでしょうか。弟たちの反発に年老いた母親が心を痛めます。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
女手ひとつで息子たちを育てた母、母を支え続けた長男
今回のご相談者は、S本R一郎さん(70代)です。S本さんは4人兄弟の長男で、母親は90歳を超えていますが、健康で頭もはっきりしており、いまなお元気です。S本さんの父親は、末っ子が生まれてすぐ、急な病に倒れて亡くなりました。そのため、母親は苦労しながら、女手ひとつで4人の息子たちを育ててきました。
とはいえ、もともと母親の実家がそれなりの資産家であったこともあり、生活には困窮しませんでした。母方の家系から譲り受けた自宅に慎ましく暮らしながら、兄弟は全員有名国立大学への進学を果たしています。
その後はそれぞれ上場企業に就職し、家庭をもちました。兄弟4人とも勤務先では幹部となり、かなりの高収入を得ています。末弟に至っては、役員にまで登りつめました。いまは4人全員が定年退職し、それぞれ配偶者や子どもたちと、悠々自適の生活を送っています。
長男であるS本さんは、生まれてこのかた、ずっと麻布の実家住まいです。結婚してからは、妻と子どもたち、そして母親と同居しています。実家は母親が祖父から相続した広い邸宅です。S本さんをはじめ、弟たちもこの家で生まれ育ったことから、みんな実家には愛着があります。弟三人はそれぞれ、世田谷、渋谷、品川に自宅を購入しています。
遺言作成者:母親 S本K乃さん・90代
推定相続人:長男(相談者)70代、次男70代、三男60代、四男60代