60~70代の4人兄弟に降りかかる相続問題。早世した父に代わって、弟たちと母親の生活を支えてきた長男が「このまま住み慣れた自宅で暮らしたい」と願うのは贅沢なのでしょうか。弟たちの反発に年老いた母親が心を痛めます。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
とはいえ、遺言で不動産の所有を決めておけば、遺産分割協議がまとまらずに売却・換金に至り、S本さんが住む場所を失うような最悪の事態は避けられます。あとは弟たちが遺留分減殺請求をしてくることも想定し、母親の預貯金だけでなく、S本さん自身の現金も残しておこうと考えています。
遺言で守られた「兄がこれまで通り生活する権利」
今回のケースのように、母親の財産のなかでいちばん高額なのが自宅の不動産ということになれば、兄弟間で平等に分割するには「売却」しかありません。そうなると、高齢の母親が危惧しているように、相談者のS本さんは住む場所を失ってしまいます。また、場合によっては自宅が兄弟の共同財産となるかもしれません。一見円満に思われますが、将来、子どもたちに相続権が移れば相続人が増え続け、さらに面倒な事態になるため、避けるべきだといえます。
しかし遺言書を用意して、そのなかで遺言執行者を指定しておけば、ほかの相続人の協力なしで不動産の相続手続きが可能になります。自宅を相続するものとしてS本さんを言執行者に指定しておけば、ほかの兄弟たちに許可や協力を求める必要もなく、S本さんがそのまま住み続けることができます。また、遺言で遺産分配の指定があるなら、遺留分として渡す金額は法定割合の半分になります。そのため、代償金として用意しなければならない現金も少なくてすむのです。
これまでの成り行きから考えれば、遺言書の内容が明らかになった際、弟たちから不満の声が上がる可能性は高いといえます。しかしその遺言の内容は、幼い弟たちを守り、母親の生活を支えてくれた長兄への感謝の表明です。
「母親の最後の務めとして、お兄ちゃんの生活を守りたいのです」
そのようにつぶやいた高齢母の気持ちをくむべきだといえるでしょう。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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