新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

放置プレーで空き家と所在不明土地の激増

ところが妹は都心のマンション住まいで夫と2人の子供の4人家族。夫婦共働きで親の家に住む意向はないものの、口を開けば、

 

「お兄ちゃん、お父さんが必死に働いて買った家、売るなんて薄情だわ」
「1000万円なんて、お父さんが聞いたら悲しむわ」

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

と詰(なじ)るそうです。そのくせ、庭の雑草取りには来ないし、年間で15万円ほどの固定資産税も彼女の相続分である3分の1相当額の負担すら嫌がって払わず、代わって彼が負担しているといいます。

 

肝心の兄は、ずっと海外勤務。ときおり電話やメールで相談しても、

 

「こっちは忙しいんだよ。親父の家なんだからほうっておけばいいんじゃね」

 

とこれまたまったくの無責任な放置プレイ状態。

 

結局月に1回、彼が現地を訪れて窓を開けて風を入れ、雑草取りや庭木の剪定をしているというものの彼も寄る年波には勝てません。

「なんだか、こんなこと何のためにやっているのだかわからないよ。俺が病気にでもなったらもう誰も管理しない廃墟ってやつになっちゃうんだろうね」

 

とため息をつきます。

 

しかし、このドラマはこれで終わりではありません。まだまだ続いていくのです。おそらくもう数年もたつと、この家のあるエリアのほとんどで相続が発生します。つまり彼と同じような状況になる家が続出するのです。エリア内を歩いても人っ子ひとり歩いていないゴーストタウンとなり、管理が行き届かない家は草木が生い茂り、エリア全体がスラムのようになっていきます。こうなるともう家は売れません。廃墟の群れに変わり果てるだけです。

 

そして、彼の子供へさらにこの家は相続されていきます。誰にも関心を持たれなくなった家は、当然相続人である子供も関心を持ちません。それどころか相続したことを登記すらしなくなります。妹にも相続が起こる、相続人は誰も登記しない。この繰り返しがやがて「所有者不明土地」となっていくのです。

 

これとまったく同じ状況はマンションでも発生します。マンションが厄介なのは、マンションは区分所有者によって一棟の建物を所有していることです。すでに老朽化した一部のマンションでは相続が発生したことを相続人が管理組合に届けずに、管理費や修繕積立金の滞納が始まり、請求しようにも相続人が誰であるのか、皆目わからないなどといった事態が生じ始めています。

 

空き家から所有者不明土地へ、不動産がゴミのように放置される社会が到来しようとしているのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

不動産で知る日本のこれから

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業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

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