「満室想定利回り」で注意すべき4ポイント
この数字だけを比較したら、マンションBよりアパートAの収益性が高いことは火を見るよりも 明らかだ。しかし、この「満室想定利回り」を見るときは、さらに次の4つの点に気をつけなくてはいけない。
1つ目は、満室想定利回りは、あくまでも「満室」時の家賃収入をベースに計算されていることだ。賃貸経営では満室を維持するのはかなり難しい。実際広告に出ている不動産も、満室でない可能性が高い。満室でなく、空室が常時3割くらいある不動産だったとしたら、この利回りは机上の空論に過ぎない。
2つ目は、新築物件にありがちだが、そもそも家賃の値付けに問題があるケースだ。例えば、地域相場と建物の仕様・設備を考慮して、新築の家賃が6万円しか取れない地域なのに7万円に設定すると、家賃に1万円も差が生じる。1棟10戸の賃貸住宅の場合、月10万円の差、年間で120万円の差が生じてしまう。そのことを知らずに購入しても後の祭り。想定利回りが7%と広告に表示されていても、実際は6%となる。しかもそれはあくまで満室時の利回りなので、募集がうまくいかなければ、その利回りはさらに下がってしまうことになる。
3つ目は、満室想定利回りのベースとなる家賃は、そのまま何年も続くとは限らないということだ。実際、利回り10%と表示されていても、10年間家賃が下がらないという不動産は珍しい。当然、立地が良ければ不動産価格が高く、その分利回りは低くなるが、家賃の下落リスクは低くなるというメリットがある。
4つ目は、広告に表示されている利回りは、年間家賃収入を不動産購入費で割って算出した表面的な利回りであり、実際の利回りではないということだ。賃貸経営にかかるコストは、不動産購入費だけではない。管理会社に委託すれば、管理費がかかる。契約する際には仲介手数料や広告料がかかり、設備の故障や建物が老朽化したときには修繕費がかかる。最大の支出である借金の返済が重くのしかかる上に、税金も払わなくてはいけない。こうした費用を差し引いて、実際残る金額がいくらなのかを考慮して算出するのが実際の利回りであり、この「実質利回り」と呼ばれる数字を把握することが必要になってくる。
さて、冒頭の疑問について再度検討すると、不動産の立地が良ければ良いほど入居者募集もしやすく、家賃も割高で下落しにくい。ただし、実際購入するとなると、不動産価格が高いため多額の借金が必要となる。金融機関は、いくら立地が良くても、賃貸経営の経験がない初心者に多額の資金は融資してくれない。ましてやスルガ銀行の不正融資が明るみになってから、金融機関の審査は通りにくくなっている。
そこで、まずは賃貸経営の実績づくりという意味も込めて、自己資金で購入できる、都心の一等地ではなく、例えば大都市圏であれば、都心ではないがターミナル駅に近い駅近二等地の中古区分マンション、地方都市であれば、中心地ではないが、生活圏として人気が高い地域の古い戸建てなどの購入から始めてみてはどうだろうか。
実は、私がこれまで会ってきた、サラリーマンから専業家主になった人たちが1軒目に購入した不動産は、現金で購入しているケースが多い。しかも土地勘がある場所で、まずは自主管理で経営している。区分や戸建ては一戸であるため、現金で購入していればそれほどリスクがなく、家主業の経験を積むこともできるようだ。
永井ゆかり
「家主と地主」編集長
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