長期・分散投資の横綱、「ドルコスト平均法」。価格が変動する金融商品を「一定の金額で」「時間を分散して」定期的に買い続ける手法を指す。投資セミナーや金融商品販売会社に行けば、安心の代名詞として説明されることも多いだろう。しかし、元野村投信のプロファンドマネージャーで現・金融経済評論家の近藤駿介氏は、『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)にて、ドルコスト平均法の危うさを指摘している。

金融庁も推奨する「分散投資なら安心」には誤解がある

◆分散投資に対する誤解

 

「さまざまな種類に分散して投資すればリスクも分散され、リターンの安定度が増すことが期待されます」

 

最近は、「ドルコスト平均法」による積立投資を検討している投資初心者に対して、このような言葉で、まずは分散投資をした投資信託などから投資を始めることを勧めることも多いようです。しかし、「投資の常識」になっているともいえる「積立投資を始める時は分散投資」という考え方も必ずしも合理的なものであるかは定かではありません。

 

金融庁のウェブサイトでは、「分散投資」について下記のような解説をしています。

 

「リスクを減らす方法の一つに分散投資があります。分散投資には、「資産・銘柄」の分散や「地域の分散」などのほか、投資する時間(時期)をずらす「時間(時期)分散」という考え方があります」(金融庁ウェブサイト「分散投資」)

 

この中の「時間(時期)分散」を図るための代表的な手法が「ドルコスト平均法」による積立投資です。これに続いて「資産・銘柄」の分散については、次のように説明されています。

 

「投資対象となる資産や、株式等の銘柄には様々なものがありますが、それぞれの資産・銘柄は、常に同じ値動きをするわけではありません。

 

例えば、一般的に、株式と債券とでは、経済の動向等に応じて異なる値動きをすることが多い(例えば株式が値上がりするときには債券が値下がりする等)と言われています。

 

こうした資産や銘柄の間での値動きの違いに着目して、異なる値動きをする資産や銘柄を組み合わせて投資を行うのが「資産・銘柄の分散」の手法です。

 

こうした手法を取り入れることで、例えば特定の資産や銘柄が値下がりした場合には、他の資産や銘柄の値上がりでカバーする、といったように、保有している資産・銘柄の間で生じる価格変動のリスク等を軽減することができます」(金融庁ウェブサイト「分散投資」)

 

投資初心者には少し理解しにくい説明かもしれませんが、重要な点は分散投資は「リターンを拡大する方法」ではなく「リスクを減らす方法」、中でも「価格変動のリスク等を軽減する方法」だということです。

 

株式は価格変動リスクが高い資産なので、株式よりも価格変動リスクが低く、異なった動きをする債券などを組み合わせた分散投資をすることによって、資産全体の価格変動リスクの低減を図ることが可能です。GPIFなど大きな資金を運用する機関投資家の基本はこの分散投資です。

 

「積立投資を始める時は分散投資」の欺瞞
「積立投資を始める時は分散投資」の欺瞞

多くの投資初心者が勘違いしている「リスク」の意味

ここで投資初心者に気を付けていただきたいことは、「リスク」というと「損失を被ること」だと思いがちですが、投資の分野で「リスク」といった場合は通常「価格変動リスク」のことを指すということです。

 

金融商品を勧める営業マンや運用を行っているファンドマネージャーたちが口にする「リスク」は「価格変動リスク」であって、多くの方がイメージする「損失を出すリスク」を表していないことが多いのです。

 

「価格変動リスク」とは文字通り、価格が上下に変動することでその大きさは統計的処理によって数字で表されます。「価格変動リスクが高い」といった場合は変動が激しいということですが、これが必ずしも損失が出る可能性が高いという意味ではないのです。

 

「価格変動リスク」が高いというのは、株価の値動きが上下に激しいということなので、損失が出た場合に損失額が大きくなる可能性があるのと同時に、大きな利益を生む場合もあるということです。

 

つまり、損失が生じた場合には損失額が大きく、同時に利益が出た場合には利益額が大きくなるというような資産を「価格変動リスクが高い資産」、「ハイリスク・ハイリターン」と呼ぶのです。

 

決して「リスクが高い=損失を被る可能性が高い」「リスクが低い=損失を被る可能性が低い」という意味ではないことをまず理解しておく必要があるのです。それゆえ、分散投資によってリスクを低減できるというのは、「損失を被る可能性を下げられる」ということではなく、「損失を被った時の損失額を大きくしないようにすることができる」という意味なのです。

 

分散投資をすることによって「損失を被った時の損失額を大きくしないようにすることができる」というのは、投資初心者にとっては大きな安心材料になるに違いありません。しかし、だからといって「ドルコスト平均法」による積立投資を、分散投資を掲げる投資信託で始めるというのが賢明な策であるということにはなりません。

リーマン・ショック級の事態で大きな損が出ていても…

清水の舞台から飛び降りるような覚悟で「ドルコスト平均法」による積立投資を始めた投資初心者には、スタート直後の損益状況がとても気にかかると思います。積立投資を始めた途端に期待に反して想定外の評価損を抱えてしまうと心が折れ、積立投資を続けていくことに不安を覚えることもあるでしょう。

 

しかし、長期の積立投資をする人が気にしなければいけないことは、初めて間もない期間、つまり積立期間が短い時期の短期的な損益よりも、最終的な投資額や目標金額に対して、どのくらいの損益が生じているのか、そしてどのくらいのリスクを抱えているのかということの方です。

 

例えば、30年後に3000万円の金融資産を作ることを目標に、毎月5万円ずつ積立投資をしていく場合、最初の1年の投資総額は60万円です。仮に投資総額が60万円になった1年後にリーマン・ショック級の事態に直面し、投資総額の半分に相当する30万円の評価損を抱えたケースを考えてみましょう。

 

投資総額60万円の半分の30万円が失われるというのは、資産形成を始めたばかりの投資家にとって極めて深刻な事態に映るはずです。しかし、目標額である3000万円と比べてみると、30万円の評価損は僅か1%に過ぎませんし、30年間の投資総額1800万円(=5万円/月×12か月×30年)に対しても60分の1、1.67%に過ぎないものです。

 

要するに、積立投資を始めて1年後に株価下落に襲われたとしても、資産形成の最終目標額に比べれば致命的な損失にはなり難いということです。

 

これが、例えば積立投資を始めてから25年、積立総額が1500万円に達していたときに株価が半値になるようなショックが起き、積立額の半分、目標額の25%に相当する750万円が吹き飛ぶような事態に見舞われたらそれは資産形成上致命的な損失であるだけでなく、それまでの25年間が無駄になりかねない事態だといえます。

 


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近藤 駿介

金融・経済・資産運用評論家

 

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