積立投資という「苦情処理に忙殺される証券会社」が考えた虚像

長期・分散投資の横綱、「ドルコスト平均法」。価格が変動する金融商品を「一定の金額で」「時間を分散して」定期的に買い続ける手法を指す。投資セミナーや金融商品販売会社に行けば、安心の代名詞として説明されることも多いだろう。しかし、元野村投信のプロファンドマネージャーで現・金融経済評論家の近藤駿介氏は、『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)にて、ドルコスト平均法の危うさを指摘している。

バブル崩壊によって「曖昧な相場観」が廃れていった

◆「バブル崩壊」が投信の転換期に

 

「ドルコスト平均法」が証券業界にとって魅力的だったのは、毎月一定額を投資することのメリットを理解してさえもらえば、それ以降の購入はほぼオートマチックに行われるというところでした。

 

バブル崩壊によって顧客からの信頼を失った証券会社や担当セールスマンの曖昧な「相場観」に頼る必要がなくなることは、安定的に投資資金を確保したい投資信託などの商品を提供する証券会社にとっても、特定の「相場観」を押し付けられることなく商品を購入できる投資家にとっても大きなメリットだったのです。

 

また、バブル崩壊によって投資信託の商品性が大きく変化していたことも「ドルコスト平均法」の普及に大きく貢献する大きな要因の一つとなりました。

 

バブル崩壊前までの投資信託は、購入期間と解約できる時期があらかじめ決められている単位型が主役でした。あらかじめ運用期間が決まっていた単位型投信は、解約できないクローズド期間を設けることで運用資産を安定させ、安定した運用ができるような商品設計で、投資家が好きな時に参加できる現在主流の追加型投信とは大きく異なるものでした。

 

しかし、バブル崩壊によって、購入期間と解約できる期間があらかじめ決まっているうえにクローズド期間があるという単位型の商品性の弱点が一気に露呈し、あっという間に廃れていったのです。それによって、投資信託を販売する証券会社側からすると、クローズド期間中に起きたバブル崩壊によって運用成績が大幅に悪化した商品の解約対応とクレーム処理、謝罪に追われ、とても新規設定ファンドの募集までは手が回らなくなってしまいました。

 

こうした後ろ向きの業務を担当するのは、投資信託を運用している運用会社ではなく、投資信託を販売している証券会社です。証券会社は販売手数料に加えて信託報酬の半分近くも受け取っていますから当然の業務だといえば当然の業務なのですが、証券会社側にこんな商品は売りたくないという不満が高まっていったのも自然の流れでした。

 

一方クローズド期間中にバブル崩壊が起きたことで、解約したくてもできずにみすみす大きな損失を被った投資信託を購入した投資家側からしても、自分の判断で売買ができない単位型投資信託は魅力のない商品でしかなくなっていました。

 

このようにバブル崩壊によって販売側、投資家側両方から見放されたことによって、単位型投資信託は一気に廃れていくことになりました。

 

とはいえ、証券会社にとって貴重な収入源であった投資信託の取り扱いを止めるという選択肢もありませんでした。それゆえに、証券会社はいつでも売買ができる追加型投信(オープン投信)の販売に注力していくようになったのです。

 

バブル崩壊後の不安定な株式市場では、募集期間と解約できない期間があらかじめ定められていて自由に売買ができない単位型投資信託より、相場観に基づいていつでも売買できる追加型投信の方が、証券会社にとっても投資家にとってもずっとメリットがあったのです。

 

投資家のみならず、証券マンの間でも単位型への不満感が伝播していった。

「単位型から追加型へ」証券会社の思惑

日々投信のパフォーマンス悪化の苦情処理という後ろ向きの業務に忙殺された証券会社の中から、投信会社に対する批判が高まっていくのは当然のことでした。「能力の低いファンドマネージャーに運用は任せられない」という怒りと、手数料収入を確保するために投信を売らなくてはならないという相対立する感情の中で生じたのは「単位型から追加型へ」という流れだったのです。

 

いつでも好きなタイミングで投資ができる追加型投信は、募集時期も含めて運用期間があらかじめ決められている単位型投信と比較すると、ファンドマネージャーの運用能力の影響を極力排除し、投資家の相場観をより反映するのに適した商品性を持っていました。投信会社のファンドマネージャーの運用能力に疑問と怒りを抱いていた証券会社にとって、ファンドマネージャーの運用能力の影響を極力排除でき、営業マンの相場観を強く反映できる追加型投信が投信販売の主力になっていくのは当然の流れだったのです。

 

さらに、営業マンの相場観を強く反映できるようにするためには、投資信託のファンドマネージャーの運用能力が反映されないようにするためのもう一工夫を加える必要がありました。そこで採用されたのが「高位組入を維持する」という運用方針です。株式の組入比率を95%といった高い水準に維持すれば、ファンドのパフォーマンスは概ね市場全体の動きに連動しますから、営業マンの相場観を反映しやすくなったのです。

 

バブル崩壊後に「単位型から追加型へ」という流れが出始めた頃の証券会社のセールストークは「安心してください。この追加型投信という商品は投信会社のファンドマネージャーの相場観が入り込まないものですから」というものでした。こうして証券会社の営業上の事情もあり、バブル崩壊後の「単位型から追加型へ」という流れは決定的になっていったのです。

 

「ドルコスト平均法」が普及していった背景には、バブル崩壊によって投資信託の主役が単位型投信からいつでも追加設定と解約が可能で高位組入という運用方針を掲げた追加型投信(オープン投信)へ移るという大きな業界の流れの変化があったのです。

変化の潮流に合致した「ドルコスト平均法」

このような投資信託業界の変化の流れに「ドルコスト平均法」はぴったりはまったのです。

 

相場状況とは無関係に毎月一定額を投資するこの「ドルコスト平均法」は、投信会社のファンドマネージャーの相場観を必要としない投資手法でしたが、それは同時に証券会社の営業マンの相場観を必要としない投資手法でもありました。

 

投資信託のファンドマネージャーの相場観を排除するために証券会社主導で起きた「単位型から追加型へ」という流れが、営業マンの相場観をも必要としない「ドルコスト平均法」を投資の主役に押し上げることになったというのは、何とも皮肉な流れだともいえます。

 

【第6回】日経平均急落が生んだ「積立投資は必ず成功する」という虚像

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【第1回】国民の税金「161.7兆円」を運用する「GPIF」、知られざる罪

 

 

近藤 駿介

金融・経済・資産運用評論家

 

金融・経済・資産運用評論家

1957年東京生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。

野村投信(現野村アセットマネジメント)のファンドマネージャーとして25年以上にわたり、株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資などの運用を経験。90年代中頃には合計約8,000億円と日本最大規模の資金を運用していた。担当したファンドが「東洋経済」の年間運用成績第2位に選出される。

また、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、同社初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は、不動産、ITなど複数企業の顧問を務めながら、評論家、コンサルタントとしても活動している。

「WORLD MARKETZ」(東京MX2)のレギュラーコメンテーターを務めるほか、「新報道 2001」「バイキング」(ともにフジテレビ)、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)などのテレビ番組に出演。また、「週刊文春」「週刊ポスト」「週刊プレイボーイ」「日刊ゲンダイ」などにもコメントを提供。著書に『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社、2018年)がある。

著者紹介

連載金融経済評論家が警告『202X 金融資産消滅』

202X 金融資産消滅

202X 金融資産消滅

近藤 駿介

KKベストセラーズ

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