「老後資金を積み立てる」という信仰が秘めた、資産半減の危機

長期・分散投資の横綱、「ドルコスト平均法」。価格が変動する金融商品を「一定の金額で」「時間を分散して」定期的に買い続ける手法を指す。投資セミナーや金融商品販売会社に行けば、安心の代名詞として説明されることも多いだろう。しかし、元野村投信のプロファンドマネージャーで現・金融経済評論家の近藤駿介氏は、『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)にて、ドルコスト平均法の危うさを指摘している。

「老後資金の捻出」で用いられるドルコスト平均法の罠

◆ドルコスト平均法の持つ本当のリスク

 

今日では「ドルコスト平均法」こそが資産形成における唯一絶対的な投資方法であるかのように信仰心を植え付けるような風潮まで出てきてしまっているようです。こうした風潮もあり、「ドルコスト平均法」が持つ本当のリスクにはほとんど触れられることはなくなってしまいました。

 

「ドルコスト平均法」のデメリットなどについては「短期的なキャピタルゲイン狙いには適さない」「定期的で継続的な投資では手数料負担が積み上がる」「安値の時に大量買いができない」「大負けはしないが大勝ちもできない」などの指摘がされています。

 

しかし、こうした指摘されているデメリットは本質的なリスクとはいえません。「ドルコスト平均法」の本質的リスクは違うところにあります。

 

「ドルコスト平均法で資産形成を始めれば大丈夫」という根拠なき安心感に浸って安易にスタートする前に「ドルコスト平均法」が持つ本質的リスクについても知っておいた方が賢明です。それを理解したうえで資産形成を初めても遅くはないはずですし、本質的リスクを理解していればそれを回避するための対策を講じることも可能になるからです。

 

「ドルコスト平均法」のブームで気になることは、「目的と手段」が本当に一致しているかどうかという点に誰も目を向けていないところです。「ドルコスト平均法」を始める際には、何を目的とした運用手法なのかをまずきちんと把握しておくべきではないかと思います。

 

では、まず「ドルコスト平均法」について再確認して、この方法が内包する問題点について考えていきましょう。

 

投資信託協会はウェブサイト上で「ドルコスト平均法」について「投資信託や株式の価格変動リスクを軽減するため、一度にまとめて購入するのではなく、例えば毎月一定額というように、定期的に定額を買付ける投資の方法のこと。一定額で買付けるので、価格が安い時には多く、価格が高い時には少なく買付けることになり、結果として平均買付け価格を下げる効果が得られる」と解説しています。

 

この解説でも指摘されている通り「ドルコスト平均法」は「平均買付け価格を下げる効果」をもたらす投資手法です。まずはこの認識をきちんと持つことが必要です。

 

もし、皆さんの「ドルコスト平均法」で投資をする目的が「買付コストの平準化」であるならば、「ドルコスト平均法」は皆さんの目的に合った適切な投資手法だといえます。しかし、皆さんの目的が「老後に必要な金融資産を作る」ことだとしたら、「ドルコスト平均法」は「目的と手段」が一致した投資手法だとはいいきれません。

 

「ドルコスト平均法」が持つ本当のリスク
「ドルコスト平均法」が持つ本当のリスク

投資累計額の50%損失?絶大なリスクを秘めている

では「ドルコスト平均法」の本質的リスクについて考えてみましょう。繰り返しになりますが、ます「ドルコスト平均法」というのは「買付コストを平準化する」ことを目的とした投資手法であって、「目標金額を貯める」ことを目的とした投資手法ではないということを再確認してください。

 

そのような投資手法である「ドルコスト平均法」が持つ本質的リスクとは、「ゴール(例えば60歳とか65歳)に近付けば近付くほど積立資産は価格変動リスクの影響を強く受けるようになっていく」ということです。

 

例えば、30年後に3000万円の金融資産を作ることを目標に毎月5万円ずつ年間60万円「ドルコスト平均法」で30年間投資をした場合を想像してください。30年後には投資元本総額は1800万円になります。

 

「ドルコスト平均法」で資産形成を図るのは、長い資産形成期間に様々なリスクに見舞われることを想定しているからにほかなりません。

 

仮に、投資対象が株式だとしたら、短期間のうちに50%近い下落に見舞われることも十分あり得ることだといえます。「ドルコスト平均法」で資産形成をする場合の最大の問題点は、こうしたリスクがいつ、どのタイミングで起きるのか、ということです。

 

例えば、毎月5万円の積立投資をした場合、1年後の投資総額は60万円です。仮に、積立投資を始めてから1年後の時点で株式市場が50%の下落に見舞われたとしたら、60万円の積立金額に対して資産評価額は30万円前後にまで下がってしまうはずです。

 

株価の下落によって投資資産の半分が失われるというのは投資家にとって極めて深刻なことだと思います。しかし、この時点で消し飛んだ評価額の30万円というのは、それまでの積立金額に対しては大きなものですが、「ドルコスト平均法」で30年後に作ろうとしている3000万円の老後資金に比較すると僅か1%にしか過ぎない規模でもあり、「一喜一憂しない」で済むものだともいえます。

 

これに対して、例えば25年後、積立金総額が1500万円に達したタイミングで50%前後の下落に襲われたとすると、750万円前後の評価額が消え去ることになってしまいます。この消滅した750万円という評価額は、目標としている3000万円の金融資産総額に対して25%、投資累計額の50%にも達するものですから、資産形成の上では「一喜一憂しない」とは言っていられない深刻な損失だといえます。

 

当たり前のことですが「ドルコスト平均法」を利用した積立投資では、時間の経過とともに累計投資額が増えていきます。それゆえ、ゴールに近づけば近づくほど価格変動リスクの影響を受けやすくなるという宿命を背負っているのです。

 

それは、「ドルコスト平均法」の最終的な結果は、例えば投資対象が日経平均株価だったとしたら、ゴール時点の日経平均株価に大きく依存しているということです。「ゴールに近付けば近付くほど価格変動リスクの影響を受けやすくなる」という当たり前のリスクについてほとんど触れられていないことが、「ドルコスト平均法」の抱える大きなリスクかもしれません。

 


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近藤 駿介

金融・経済・資産運用評論家

 

金融・経済・資産運用評論家

1957年東京生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。

野村投信(現野村アセットマネジメント)のファンドマネージャーとして25年以上にわたり、株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資などの運用を経験。90年代中頃には合計約8,000億円と日本最大規模の資金を運用していた。担当したファンドが「東洋経済」の年間運用成績第2位に選出される。

また、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、同社初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は、不動産、ITなど複数企業の顧問を務めながら、評論家、コンサルタントとしても活動している。

「WORLD MARKETZ」(東京MX2)のレギュラーコメンテーターを務めるほか、「新報道 2001」「バイキング」(ともにフジテレビ)、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)などのテレビ番組に出演。また、「週刊文春」「週刊ポスト」「週刊プレイボーイ」「日刊ゲンダイ」などにもコメントを提供。著書に『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社、2018年)がある。

著者紹介

連載金融経済評論家が警告『202X 金融資産消滅』

202X 金融資産消滅

202X 金融資産消滅

近藤 駿介

KKベストセラーズ

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