だまされ続ける日本人「政府と金融業界のカモ」を抜け出せない

国民の公的年金資金を管理運用する「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」。その規模は、2019年6月末時点で「161.7兆円」にも上り、安倍総理が「世界最大の機関投資家」と豪語している。そして同年、年金の健康診断とも称される「財政検証」の結果、GPIFが、保有資産を売却する可能性が浮上した。元野村投信のプロファンドマネージャーで、現・金融経済評論家の近藤駿介氏は、『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)にて、GPIFの功罪を指摘している。

政府と金融業界が叫ぶ「貯蓄から投資へ」に対する疑惑

◆顧客は興味があってリテラシーが低いのがいい

 

政府は「異次元の金融緩和」による日銀のETF買いと、GPIFの「基本ポートフォリオ変更」によって円安・株高を演出する一方で、「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて、個人投資家を金融市場に参加させるべく様々な施策を行ってきました。

 

それは、日銀とGPIF以外に円安・株高を支える主体がどうしても必要だからです。

 

日銀がETFを購入し続けることは難しいうえ、GPIFが管理運用している年金積立金はいずれ年金給付の財源として使われることになっており、GPIFがいつまでも金融市場の支え手になっている訳にもいかないのです。

 

政府が金融業界と一体となって「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて投資促進キャンペーンを推し進めるのは、将来個人投資家を日銀とGPIFに代わる買いの主体にしたい、さらにいえば日銀やGPIFの売物を吸収する主体にしたいという思惑があるからです。

 

こうした構図は、将来世代に対して「One team」の一員としてGPIFの売り物を吸収して自分たちの年金給付額を守れと号令をかけているようなものです。

 

国民は思惑を知らない
国民は思惑を知らない

金融商品販売会社「客のリテラシーは低い方がいい」

政府が旗振り役を務める「貯蓄から投資へ」という投資促進キャンペーンの中で、数多の投資情報が提供されるとともに「分散投資」「ドルコスト平均法」「若いうちはリスクを取れる」などなど多くの「投資の常識」の浸透が図られています。

 

しかし、膨大な量の情報が提供され、数えきれないほどの投資セミナーなどが開催されているにもかかわらず、日本の「金融リテラシー不足」という問題は一向に解決されず、いつまでも「金融リテラシー向上」の必要性が叫ばれ続けているというのも事実です。

 

なぜこれほどまでに膨大な量の情報が提供され、数えきれないほどの投資セミナーなどが開催されているにもかかわらず、「金融リテラシー不足」という問題は一向に解決されないのでしょうか。

 

膨大な量の情報や、数えきれないほど開催されている投資セミナーで提供されている「投資の常識」のほとんどが、証券会社や銀行といった金融商品販売会社によって発信されていることが一つの大きな要因です。

 

金融商品販売会社の目的は、投資家に金融商品を販売することです。考えていただきたいのは、金融商品を販売するにあたり投資家(顧客)の金融リテラシーが高いのと低いのとどちらが金融商品販売会社にとって都合がよいか、ということです。

 

筆者は機関投資家として、それこそ世界中の金融商品販売会社から様々な金融商品のセールスを受けてきた経験を持っています。

 

世の中には個人投資家向け商品と機関投資家向け商品がありますが、購入時の販売手数料もその後の信託報酬などのコストも機関投資家向け商品の方が極めて低くなっており、その分得られるリターンは高くなっています。なぜなら、機関投資家はまとまった資金を出すうえに、金融商品販売会社との間に金融リテラシーの格差もないからです。むしろ投資の専門家である機関投資家の方が金融機関の営業マンよりも金融リテラシーが高いのが普通です。

 

筆者は証券会社に依頼してオーダーメイドの投資商品を何回か組成した経験を持っていますが、その打合せの相手は担当営業マンではなく商品組成部隊の専門家でした。販売のプロであって、金融や投資、商品組成のプロではない営業マンには、デリバティブを含んだ筆者の要望を正しく理解して商品組成部隊に伝えることが難しかったからです。

 

このように投資家と販売業者の間に金融リテラシーに差がないどころか投資家の方が上回っている上に、機関投資家の場合、複数の証券会社と交渉することが可能ですから、商品組成のコストは一般的に販売されている金融商品と比較してかなり割安になるのです。

 

もちろんそれは販売業者側からすると販売に関わる手数料収入が減るということです。ただし、それは機関投資家全員に当てはまるわけではありません。機関投資家であっても、販売業者と対等以上のリテラシーを持っていなければ、個人投資家と同程度のコストを負担するしかないのです。

 

機関投資家と個人投資家をそのまま比較することはできませんが、金融商品販売会社の立場からすれば、金融リテラシーが低い客が多い方がビジネス的に美味しいことだけは間違いありません。銀行や証券会社からすると、自分たちが開催している投資セミナーによって参加者の金融リテラシー向上が図られてはビジネス的に困るというのが実情なのです。

 

政治の世界には「神輿は軽くてパーがいい」という有名な言葉がありますが、これになぞらえれば「顧客は投資に対する関心と興味はあって金融リテラシーが低いのがいい」というのが金融商品販売会社の本音です。

「最高の客」を作り上げる「日本の金融業界」の闇

◆髪を切った方がいいか床屋に尋ねてはいけない

 

顧客の金融リテラシーが低い方が販売会社にとって好都合な理由は二つあります。

 

一つは、顧客の金融リテラシーが低ければ、顧客が担当営業マンの金融リテラシーを推し量ることができないことです。担当営業マンが少しでも顧客の知らない専門用語を使えば、顧客は勝手に営業マンの方が自分より金融リテラシーが高いと思い込んでくれるのです。こうなると、無意識のうちに顧客は担当営業マンを「先生」だと勘違いし、教えを乞おうとするようになっていきます。販売会社にとってこうなればしめたものです。

 

少し前に証券会社の店頭を訪れた定年世代の夫婦が、窓口の担当者に「株式投資を始めたいのですが、何を買えばいいでしょうか」と尋ねるというCMがありました。証券会社のCMに登場するこの手の客が、証券会社にとっては最高の客なのです。

 

「髪を切った方がいいか床屋に尋ねてはいけない」

 

これは日本でも信奉者の多い米国の著名な投資家ウォーレン・バフェット氏の格言です。このバフェット氏の格言に従えば、証券会社に行って「何を買ったらいいでしょうか」と聞くのは止めた方がいいということになります。

 

証券会社に行くのは、自分が何をしたいのかを決めてからでも遅くありません。「だまされた」「カモにされた」と嘆く前に、自分が何をしたいのかを決めてから販売会社を訪ねることをお勧めします。

 

このように、金融リテラシーが低い人は「販売会社にとってとても都合のいい客」になる可能性が高い人ですので、そのまま金融リテラシーが低いままでいていただくのが最高なのです。多くの金融商品販売会社が数多くの投資セミナーを開催しているのは、参加者の金融リテラシーを向上させるためではなく、参加者を顧客にするためでしかありません。

 

投資に関心や興味を持っていて金融リテラシーが低いというのが商品販売会社にとって上客の条件なのですから、投資セミナーは参加者の関心をひきつけるだけで金融リテラシーを向上させるような内容にならないのは当然なのです。

 

顧客の金融リテラシーが低い方が販売会社にとって好都合である二つ目の理由は、販売会社側が金融リテラシーの高い営業マンを揃えなくて済む点にあります。

 

1点目の理由で触れましたが、金融リテラシーが低い顧客に対して必要なのは、その客から自分よりも相対的に金融リテラシーが高く見える担当者であり、必ずしも本当に金融リテラシーが高い担当者を用意する必要はありません。

 

もし、金融リテラシーの高い客が増えて本当に金融リテラシーが高い担当者を多数揃える必要に迫られる事態になったら、販売会社にとっては一大事です。金融リテラシーが低いといわれる日本で、金融リテラシーの高い人材を多く確保するのは極めて難しいことですし、教育で金融リテラシーの高い営業マンを作ろうとしたら相当のコストが必要となるからです。

 

ここでの問題は費用だけではありません。一般的に金融リテラシーが高くない日本では、営業マンの金融リテラシー向上を図る教育プログラムも教師もほとんど存在しないこと自体が大きな問題になってしまうのです。

 

これに対して、金融リテラシーが低い顧客よりも相対的に金融リテラシーが高く見える担当者であれば、コストをかけることなく比較的簡単に確保することができます。本社のアナリストやエコノミストから出される専門用語が散りばめられたレポートなどを記憶すればいいだけですから。

 

ポイントは、レポートや投資セミナーを通して世の中に大量に提供される情報は、顧客の金融リテラシーが向上しては困る金融商品販売会社から出されているということです。

 

こうした現実が物語るのは、世の中に出回っている投資情報などを丸暗記したところで金融リテラシーの向上は期待できないということを示しています。それどころか、販売会社から発信される情報を丸暗記してくれるような顧客が最高の上客になっていくのです。

 

【第2回】年金「14兆8038億円」を損失し、知らぬふりする政府の魂胆

【第1回】国民の税金「161.7兆円」を運用する「GPIF」、知られざる罪

 

 

近藤 駿介

金融・経済・資産運用評論家

 

金融・経済・資産運用評論家

1957年東京生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。

野村投信(現野村アセットマネジメント)のファンドマネージャーとして25年以上にわたり、株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資などの運用を経験。90年代中頃には合計約8,000億円と日本最大規模の資金を運用していた。担当したファンドが「東洋経済」の年間運用成績第2位に選出される。

また、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、同社初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は、不動産、ITなど複数企業の顧問を務めながら、評論家、コンサルタントとしても活動している。

「WORLD MARKETZ」(東京MX2)のレギュラーコメンテーターを務めるほか、「新報道 2001」「バイキング」(ともにフジテレビ)、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)などのテレビ番組に出演。また、「週刊文春」「週刊ポスト」「週刊プレイボーイ」「日刊ゲンダイ」などにもコメントを提供。著書に『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社、2018年)がある。

著者紹介

連載金融経済評論家が警告『202X 金融資産消滅』

202X 金融資産消滅

202X 金融資産消滅

近藤 駿介

KKベストセラーズ

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