投資の常識「若いうちはリスクを取れる」に対する壮大な誤解

老後2000万円問題を皮切りに、「貯蓄から投資へ」が叫ばれる昨今。元野村投信のプロファンドマネージャーで現・金融経済評論家の近藤駿介氏は、『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)にて、日本人の金融リテラシーの低さを危惧している。

バブル崩壊後に編み出したセールストークの安易さ

◆若いうちはリスクを取れる?

 

1988年から資産運用業界に身を置いている筆者は、「若いうちはリスクを取れる」という考え方は、バブル崩壊で既存顧客を失った証券業界が、新たな若年層を顧客に取り込もうとして編み出したセールストークだと思っています。

 

少なくとも、バブル崩壊前の1980年代にはこうした考え方を聞いたことはありませんでした。もちろん高邁な考え方や「投資の常識」を振りかざさなくても十分な資金が集まっていましたから不必要だったという部分も大きいと思いますが。

 

「若いうちはリスクを取れる」という考え方は一見もっともらしく聞こえるものかもしれません。実際に年金運用などの分野でも、「御社は成熟度が低い(加入者の平均年齢が若い)ので内外株式の比率を高めた積極運用でいきましょう」とか、「御社は成熟度が高い(加入者の平均年齢が高い)ので債券の比率を高めにした安定運用でいきましょう」という提案が日常的になされており、「投資の常識」の一つになっています。

 

しかし、「若い=リスクが取れる」という公式は「投資」「資産形成」という観点から考えると少々安易すぎるように思えます。「投資」や「資産形成」において最も重要な要素は「時間」です。実際に四半世紀にわたって資産運用業務に携わってきた筆者は、この「時間」を友達にできるかどうかで運用の巧拙が決まるといっても過言ではないと考えています。

「時間」を味方につけてリスクを減らす方法とは?

では、どのようにして「時間」と友達になればいいのでしょうか。

 

そのためにまず必要なことは、自分の運用期間と目標金額を明確にすることです。例えば、65歳になった時に3000万円の金融資産を作るというような感じです。

 

このような目標を設定した場合、資産形成を始める年齢によって資産形成期間という「時間」が変わるので、それによって必要な運用利回りは異なってくるということは、感覚的に当然だと感じてもらえると思います。

 

仮に、65歳の時点で3000万円の金融資産を作ることを目指して「毎月3万円+ボーナス時7万円=年間50万円」を老後資金として積み立てるとした場合を考えてみましょう。

 

まず、30歳から資産形成を始め運用期間が35年(積立額累計1750万円)になる人は、単純計算では投資資金を2.96%で運用できれば目標金額3000万円を達成できることになります。

 

それに対して、資産形成を始めるのが40歳で運用期間が25年(積立累計額1250万円)の人は、目標の3000万円を達成するためには単純計算では投資資金を6.63%で運用しなければなりません。さらに運用開始年齢が50歳で運用期間が15年(積立累計額750万円)しかない人は目標達成のためには17.81%の運用利回りが必要だという計算になります(※図表)。

 

図表は筆者作成
[図表]「資産形成」開始年齢と必要運用利回り 図表は筆者作成

 

つまり、年間の積立額を同じにした場合、資産形成を始める年齢が若ければ若いほど目
標の65歳時点で3000万円という目標を達成するために必要な運用利回りが低くて済むということです。運用利回り、リターンは取るリスクを源泉に得られるものですから、必要な運用利回りが低くて済むということは、取るべきリスクも低くて構わないということと同義です。

 

「時間」という要素を加えて考えると、「若いうちはリスクを取れる」という「投資の常識」とは反対の、「時間というアドバンテージがある若いうちは高いリスクを取る必要がない」という結論が導き出されるのです。

 

こうした「時間」という概念を考慮せずに「若いうちはリスクが取れる」という投資の常識に従って、30歳の時に取る必要のないリスクをとって資産形成を始めた場合どうなるでしょうか。

 

もちろんそれが成功すれば、想定以上の資産を手にすることができるでしょう。しかし、もし失敗して10年後の40歳の時に想定以上の損失を抱えてしまった場合、そこから先25年間で目標を達成するために必要な運用利回りは元々の約3%より高いものになってしまいます。つまり、「年齢を重ねたことでより多くのリスクを取らなければならない」状況に追い込まれるということです。これは「若いうちはリスクを取れる」という現在の「投資の常識」の正反対の行動を取る必要に迫られるということにほかなりません。

 

「若いうちはリスクを取れる」という「投資の常識」は、「年齢を重ねるにつれてリスクを落とす運用を可能にするような運用をせよ」ということだと解釈するべきだと思います。

 

運用は計画的に!
運用は計画的に!

 

資産形成を始める年齢、つまり「運用期間」と「目標額」、「年間の積立額」の3つを決めれば目標を達成するために必要な「運用利回り」が算出できます。この「運用利回り」が「時間」というアドバンテージをどのくらい持っているのか、どのくらいのリスクを取るのが適正なのかを判断するうえで重要な指標となるのです。

 

必要な「運用利回り」が3%程度だったとしたら、新興国の株式や仮想通貨といったリスクの高い商品に手を出すことが賢明な選択ではないことは特別な金融リテラシーを持っていなくても分かるはずだからです。

 

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近藤 駿介

金融・経済・資産運用評論家

 

金融・経済・資産運用評論家

1957年東京生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。

野村投信(現野村アセットマネジメント)のファンドマネージャーとして25年以上にわたり、株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資などの運用を経験。90年代中頃には合計約8,000億円と日本最大規模の資金を運用していた。担当したファンドが「東洋経済」の年間運用成績第2位に選出される。

また、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、同社初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は、不動産、ITなど複数企業の顧問を務めながら、評論家、コンサルタントとしても活動している。

「WORLD MARKETZ」(東京MX2)のレギュラーコメンテーターを務めるほか、「新報道 2001」「バイキング」(ともにフジテレビ)、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)などのテレビ番組に出演。また、「週刊文春」「週刊ポスト」「週刊プレイボーイ」「日刊ゲンダイ」などにもコメントを提供。著書に『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社、2018年)がある。

著者紹介

連載金融経済評論家が警告『202X 金融資産消滅』

202X 金融資産消滅

202X 金融資産消滅

近藤 駿介

KKベストセラーズ

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