低リスクを嘯き、初心者に「積立投資」を勧める販売会社の魂胆

長期・分散投資の横綱、「ドルコスト平均法」。価格が変動する金融商品を「一定の金額で」「時間を分散して」定期的に買い続ける手法を指す。投資セミナーや金融商品販売会社に行けば、安心の代名詞として説明されることも多いだろう。しかし、元野村投信のプロファンドマネージャーで現・金融経済評論家の近藤駿介氏は、『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)にて、ドルコスト平均法の危うさを指摘している。

投資の王道「ドルコスト平均法」の致命的なリスク

「ドルコスト平均法」で買付コストを平準化したとしても、積立投資ではゴールに近付けば近付くほど、株式などリスク資産の「価格変動リスク」が資産形成の結果に大きな影響を及ぼすという宿命から逃れることはできません。

 

つまり、積立投資を行う投資家が回避しなければならないのは、積立投資を始めて間もない頃の株価の下落ではなく、積立期間が長くなり投資元本が大きくなってからの株価の変動だということです。

 

こうした運用上の理屈からすると、分散投資を掲げる投信などを投資対象に積立投資を始めることが賢明な選択だとはいいきれません。投資額が目標額に対して少額であり、資産形成計画に致命的な悪影響を及ぼさない時期のリスクの回避に過剰になる必要があるのかという問題です。

 

「若いうちはリスクを取れる」という「投資の常識」に照らし合わせれば、若い頃、つまり積立投資を始めて間もない期間の損益は、将来的な最終目標金額からみたら神経質になる必要はないので、コストをかけて分散投資を掲げる投信などに投資するよりも、コストの低い株式投信やETF(上場投資信託)といった相対的にリスクが高いとされるリスク資産を中心とした積極運用を心がけた方が賢明な選択であるともいえるのです。ゴールまでの期間が長ければ長いほど、株式市場の価格変動に伴う損失リスクが目標額に対するリスクとしては小さいのですから。

 

「若いうちはリスクを取れる」という「投資の常識」は、「歳を重ねるにつれてリスクを落とした運用をできるようにしていけ」と解釈することもできます。そして、繰り返しになりますが、「ドルコスト平均法」を利用した積立投資の特性の一つは、投資期間が長くなり、ゴールに近付けば近付くほど資産の価格変動リスクに伴う損失が致命的になり得るということです。

 

こうした特性からいえることは、積立投資の期間が長くなるにつれて投資対象を分散させ、資産全体の価格変動リスクを下げていくことを心がけていく必要が高くなるということです。

 

つまり、「ドルコスト平均法」による積立投資をする場合は、投資期間がまだ短い時期には積極運用を目指し、投資期間が長くなり投資金額が大きくなるにつれて分散投資を進めていくというのが一つの論理的な考え方になるのです。

投資初心者に「積立投資」を勧める業者側の魂胆

投資初心者に、積立投資を始める時は分散投資を謳った投資信託などから始めた方がいい、というのは販売会社側の理屈であるといえます。

 

販売会社側からすれば、積立投資を始めようとしている投資初心者はこの先長年にわたって手数料を払ってくれる可能性の高い大切な顧客です。同時に、評価損を抱えることに慣れていない投資初心者は、積立投資を始めてすぐに期待に反する形で投資金額に比較して大きな損失を抱える事態に見舞われると、心が折れて積立投資を止めてしまう可能性もある投資家でもあります。

 

それゆえに販売会社側は、顧客離れを防ぐことを優先して、大きな損失を被りにくい分散投資から始めることを勧めるのだと思います。

 

結局は投資家の自己責任
結局は投資家の自己責任

 

しかも、分散投資を謳う投資信託の中には「ファンドオブファンズ(Fund of funds)」という複数の投資信託に投資する形式をとっている商品も少なくなく、証券会社や運用会社に入る報酬も増えるという傾向もあります。それは、投資家側からするとその分コストが割高になりがちだということです。規模は別にして、必要以上に高い信託報酬を払い続けるということは、投資で損失を出し続けるのと大差ないのです。

 

資産形成全体の目標からみれば特別ヘッジする必要のないリスクを、コストをかけてまでヘッジするというのが合理的な判断なのか、積立投資を始める前に一度考えてみることをお勧めしたいと思います。

 

仮に勧められるがままに分散投資を謳った投資信託を使って積立投資を始めてから、しばらくの間日本株が上昇基調を続けたら皆さんはどう思うでしょうか。分散投資をしてリスクを抑えておいてよかったと思うのか、それとも思い切ってリスクを取って日本株に投資しておけばよかったと思うでしょうか。

 

リスクを抑えた運用をしていてよかったと思える人は、そのままずっと分散投資を続けることができるかもしれません。しかし、思い切ってリスクを取ればよかったという後悔の念を持つ人は、どこかのタイミングでリスクを取った運用をしようとする可能性が高いのではないでしょうか。しかし、それは「年齢を重ねてから大きなリスクを取る」という、「若いうちはリスクが取れる」という「投資の常識」に反する行動を起こすことにもなるのです。

 

「ドルコスト平均法」などを利用した長期間の資産形成をする場合に重要なことは、ゴールまでの投資期間の長さに応じてリスクを抑える運用をしていくのが原則だという認識を持っておくことです。この原則に従って、自分の年齢を考慮して定期的に資産構成を見直していくことが必要です。

 

そしてこの資産構成の見直しをする際に重要なことは、自らの年齢と投資期間を判断基準の最重要要素とし、決して短期的な相場観を優先しないということです。

 

若いうちに少し多めのリスクを取って、年齢を重ねるにつれてリスクを抑えた運用に切り替えていくか、それとも若いうちは慎重にリスクを抑えた運用から始め、慣れてきたらリスクを取りに行くのか。それを決めるのは投資家の自己責任です。

 

 

【第5回】 投資の常識「若いうちはリスクを取れる」に対する壮大な誤解

 

【第4回】多くの日本人が「貯蓄から投資へ」に感じてしまう奇妙な違和感

 

【第3回】だまされ続ける日本人「政府と金融業界のカモ」を抜け出せない

 

【第2回】年金「14兆8038億円」を損失し、知らぬふりする政府の魂胆

 

【第1回】国民の税金「161.7兆円」を運用する「GPIF」、知られざる罪

 

 

近藤 駿介

金融・経済・資産運用評論家

 

金融・経済・資産運用評論家

1957年東京生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。

野村投信(現野村アセットマネジメント)のファンドマネージャーとして25年以上にわたり、株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資などの運用を経験。90年代中頃には合計約8,000億円と日本最大規模の資金を運用していた。担当したファンドが「東洋経済」の年間運用成績第2位に選出される。

また、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、同社初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は、不動産、ITなど複数企業の顧問を務めながら、評論家、コンサルタントとしても活動している。

「WORLD MARKETZ」(東京MX2)のレギュラーコメンテーターを務めるほか、「新報道 2001」「バイキング」(ともにフジテレビ)、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)などのテレビ番組に出演。また、「週刊文春」「週刊ポスト」「週刊プレイボーイ」「日刊ゲンダイ」などにもコメントを提供。著書に『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社、2018年)がある。

著者紹介

連載金融経済評論家が警告『202X 金融資産消滅』

202X 金融資産消滅

202X 金融資産消滅

近藤 駿介

KKベストセラーズ

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