人口減少の局面になり、厳しさが増す不動産投資。今後、どこが投資エリアとして有望なのか。不動産投資には欠かせない要素である「人口」や「不動産取引の現状」などをもとに、検討していく。今回紹介するのは、千葉県の「海浜幕張」と「新浦安」。

高度成長期に誕生した、千葉・臨海部の新しい街

JR京葉線「新習志野」駅と「海浜幕張」駅間で、新駅の建設が進んでいる。2023年度末の開業を目指していたが、先日、工事の施工方法の見直しなどにより、開業が1年近く前倒しになると発表された。

 

幕張メッセが東京五輪・パラリンピックの競技会場となっており、新駅の開業は幕張新都心の活性化に向けた起爆剤になると期待されている。

 

一方、千葉・湾岸エリアで住まい選びの候補として海浜幕張と人気を二分するのが新浦安だ。いまは死語となっているが、2000年代の一時期、女性誌を中心に白金のシロガネーゼ、二子玉川のニコタマダムと街の住民を呼んだが、新浦安においてもマリナーゼという言葉が生まれ、オシャレな街としてのイメージが広がった。

 

今回は、東京のベッドタウンとしても人気の二つの街(駅)を、不動産投資の観点で比較しながら見ていこう。

 

「海浜幕張」のある千葉市美浜区は、千葉市の西側、全域が埋立地からなる。このエリアの埋め立ては、戦後の食糧難の解決のために干拓事業のひとつとして計画された。1967年には海浜ニュータウン計画が発表され、73年から埋め立て着工。80年に幕張地区の埋め立て工事は完了し、89年に幕張メッセがオープンすると、名実ともに日本を代表する国際コンベンション都市として認知されるようになった。

 

そんな海浜幕張地区だが、バブル崩壊により、進出企業の撤退や計画の遅れが問題となった時期があった。しかし当初よりも1年ほど遅れて分譲が開始された「幕張ベイタウン」は最高367倍もの応募倍率となり、憧れの街という印象を決定づけることになった。

 

そんな海浜幕張地区の玄関口となっているのが、京葉線の「海浜幕張」駅だ。エリアの開発に合わせて1986年に開業。大手流通グループ・イオンの本社ビルのほか、周辺は高層のオフィスビルが林立し、「三井アウトレットパーク 幕張」などの商業施設や宿泊施設も多く立地する。街の充実に合わせて駅の利用者も右肩上がりで、1日平均の乗車人数は約6万8,000人と、千葉市内では「千葉」駅に次いで第2位。「新浦安」駅をも上回っている。

 

海浜幕張エリア
海浜幕張エリア

 

一方「新浦安」のある浦安市は千葉県北西部、県下で最も東京寄りに位置し、旧江戸川を挟んで東京都江戸川区と接している。都心へのアクセスの良さからベッドタウンとしての人気が高く、また東京ディズニーリゾートが立地していることから、市内にはリゾートホテルが多数点在している。

 

市域の3/4は、1960年代以降に造成された埋立地で、かつては3キロほど沖まで遠浅の海が広がっていた。市制が施行されたのも新しく、1981年のことである。

 

なにかと東京ディズニーリゾートのイメージが先行する浦安市だが、住環境の良さが特に支持さてているのが「新浦安」だ。駅周辺には「イオン新浦安店」や「MONA」、「アトレ新浦安」などの商業施設のほか、オフィスビルが立地し、その周囲に整然とマンション群が広がる。

 

また東京ディズニーリゾートへ1駅という利便性から、「浦安ブライトンホテル」「オリエンタルホテル東京ベイ」「ホテルエミオン東京ベイ」「三井ガーデンホテルプラナ東京ベイ」など、多くのリゾートホテルが点在する。駅の利用者数は約5万7,000人と、多くのオフィスビルが並ぶ「海浜幕張」を下回るものの、浦安市内では東京メトロ東西線の「浦安」駅よりも多く、存在感を発揮している。

 

新浦安駅前
新浦安駅前

家族に人気の「海幕」、単身者にも人気の「新浦」

千葉県臨海部のふたつの人気エリアを不動産投資の観点で見ると、どのような街なのだろうか。

 

まず直近の国勢調査(図表1)を見てみる。千葉市全体の人口増加率は1.1%であるのに対して、美浜区は-1.0%を記録している。千葉市で人口減少を記録しているのは、ほかに「若葉区」(0.3%減)「花見川区」(1.0%減)の2区がある。また浦安市も0.5%減を記録。2011年の東日本大震災の際に、新浦安エリアの液状化現象が大々的に報道された。前回の国勢調査(2015年)の際には、その影響もあったのかもしれない。

 

出所:平成27年度「国勢調査」より
[図表1]2エリアのの人口動態 出所:平成27年度「国勢調査」より

 

両エリアの人口構造を見てみると(図表2)、同じ千葉県の臨海部ではあるが、現役世代の割合が浦安市のほうが7%ほど高く、その分、高齢者人口が少ない。「新浦安」から「東京」まで、平日8時出発とすると乗り換えなしで20分(「浦安」から「大手町」まで東京メトロ東西線で25分)と、「海浜幕張」から「東京」までの所要時間の半分の距離である。都心からの交通利便性の高さから、「浦安」が現役世代からの支持されていることがわかる。

 

出所:平成27年度「国勢調査」より
[図表2]2エリアの年齢別世帯数割合 出所:平成27年度「国勢調査」より

 

また単身者世帯率を見てみても(図表3)、浦安市全世帯の40%近くが現役の単身者で、美浜区より10%近く高い。都心へのアクセスの良さから、現役世代の単身者に支持される浦安市、ファミリー層を中心に支持される千葉市美浜区、という構図が見えてくる。

 

[図表3]両エリアの世帯数

 

次に住宅事情を見てみよう。賃貸住宅の空き家率を見てみると(図表4)、千葉市美浜区は4%台に対して、浦安市は8%台となっている。さらに賃貸住宅の建設年の分布(図表5)をみてみると、千葉県美浜区では1970年代に一気に賃貸物件が建てられ、築40~50年のものが大半を占めるという状況である。美浜区のほうが浦安市よりも高齢者率が高く、築年数の古い物件が多いということを考えると、賃貸ニーズが活発で入退去が多いというよりも、賃貸ニーズが停滞し入退去が少なくなってと推測される。

 

出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より
[図表4]2エリアの住宅事情 出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より

 

出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より

[図表5]2エリアの賃貸物件の築年数分布 出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より

 

さらに不動産の取引状況をみてみよう(図表6)。現状、土地、中古マンション共に、浦安市では千葉市美浜区の2倍近くの価格で取引されている。やはり東京区部に隣接するという立地、都心へのアクセスの良さから、不動産価値が高まっているようだ。

 

出所:国土交通省「土地創業情報システム 不動産取引情報」
[図表6]2エリアの不動産取引状況 出所:国土交通省「土地創業情報システム 不動産取引情報」

 

続いて駅周辺の人口の状況を見ていくと(図表7)。「海浜幕張」駅周辺では1世帯当たり平均2.8人、「新浦安駅」周辺では平均2.2人という構成だった。「海浜幕張」の住民の多くはファミリー層であるのに対し、「新浦安」はファミリー層に支持されるエリアながらも都心へのアクセスの良さから単身者層からも支持されているという街の状況が見えてくる。

 

出所:平成27年度「国勢調査」より
[図表7]「海浜幕張」駅と「新浦安」駅周辺の人口動態 出所:平成27年度「国勢調査」より

新規住民流入の期待薄で「海浜幕張」の人口減少が加速

両エリアの将来人口の推計を見ていこう。国立社会保障・人口問題研究所の推測(図表8、9)によると、千葉市美浜の人口減少はとまらず、2040年には121,800人と予測。2015年を100とすると、2040年は78.5という水準である。美浜区では埋め立て完了とともに、一気に住宅地が分譲された。持ち家率が高く、賃貸物件の少ないエリアであるため、街が更新されていかない限り、エリアの人口減少のスピードは増していくと考えられる。

 

出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
[図表8]千葉市美浜区の将来推計人口 出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」

 

出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」

[図表9]浦安市の将来推計人口 出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」

 

一方浦安市では、2025年をピークに人口が減少。そのスピードは緩やかで、2015年を100とすると、2040年は100.3という水準である。古くからの市街地をあわせもつ浦安市は、賃貸物件も多い。東京都区部に隣接するという立地から住民も更新されていくため、人口減少のスピードは、美浜区よりも遅くなるのだろう。

 

また両駅周辺を黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析で見てみると(図表10、11)、「海浜幕張」駅周辺は、ほぼ人口減少を示す青系色に染まる。前出の通り、持ち家率の高いエリアであり、新規住民の流入が期待できない。また「新浦安」駅周辺も人口減少が目立つが、駅から離れたエリアではまだ開発の余地が残っており、人口増が期待されている。

 

出所:RESASより作成
[図表10]2015年~2040年「海浜幕張」駅周辺の人口増減率 出所:RESASより作成
出所:RESASより作成
[図表11]2015年~2040年「新浦安」駅周辺の人口増減率 出所:RESASより作成

 

このように同じ千葉県の臨海部に位置する「新浦安」と「海浜幕張」だが、不動産投資の観点で見ると、新浦安のほうに分配があがる。一方で「海浜幕張」のオフィス街としてのポテンシャルは別にあり、新駅誕生などで、不動産価値の向上が期待される。

 

しかし両エリアとも、臨海部で埋立地と、災害に弱いというリスクをはらむ。前出のとおり、東日本大震災の際には、新浦安の液状化が大きく報道され、新浦安=地震に弱い街、という印象をもった人も多い。今後、70%の確率で首都直下地震が起こるとされている。その際のリスクを享受できるか。両エリアを投資対象として考える際、重要な判断材料となるだろう。

 

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