日本経済を支える「名古屋」だが、話題が少なく地味
コロナウイルスによる感染拡大が懸念されているが、今年、東京では五輪が開催となり、2025年には、大阪で万国博覧会が開催される。
両都市とも、ビックイベントの開催に加えて、大規模な都市開発もあり、さまざまな話題を振りまいているが、そのなかで埋没している感があるのが、名古屋だ。不動産投資の観点で見てみると、東京は五輪決定後に好景気に沸き、大阪は東京の次の投資対象として注目が高まっているが、日本の三大都市圏のひとつである名古屋の話題は、なかなかあがってこない。
しかし名古屋(圏)が日本経済になくてはならない存在であることは、誰もが知るところ。日本の貿易の中心である製造業に絞って見てみよう。経済産業省の『工業統計調査』などによると、東京都は約1万2000社、大阪府は約1万8000社に対して、名古屋(愛知県)は約1万7000社と、東京を上回り、大阪と拮抗している。さらに製造品出荷額を見ると、東京約7兆円、大阪約16兆円に対して、名古屋(愛知)は約46兆円と、東京や大阪を大きく上回る。ちなみに、東京に神奈川と千葉を含めても40兆円に届かない。名古屋抜きで日本は成り立たないといっても過言ではない。
一方で、名古屋は対外的に魅力に欠けるエリアと言わざるをえない。それは昨今、何かと話題になるインバウンドの状況を見ても明らかである。観光庁の『訪日外国人消費動向調査』によると、2018年に東京を訪れた訪日外国人は約350万人、大阪は約290万人に対して、名古屋(愛知県)は約60万人と、東京や大阪の5分の1の規模。訪日外国人のクレジット消費額を見てみると、東京は約1,200億円、大阪は約390億円に対して、名古屋(愛知県)は約43億円と、人数以上の差が付いている。
名古屋では2017年に「レゴランド・ジャパン」が開業、2022年には愛・地球博記念公園内にジブリパークが開業する予定だ。ジブリ作品は海外でも人気で同施設も注目されているが、東京や大阪近郊にある大型のテーマパークに比べて、どれほどの集客力を発揮するか、未知数でしかない。
東京、大阪、名古屋…日本三大都市の将来性は?
このように、エリアの実力に対して人気や評価の低い状況にある名古屋は、不動産投資の観点で見ていくと、今後どのようなポテンシャルがあるのだろうか。東京23区と大阪(市)と比較しながら考えてみよう。
まず直近の国勢調査(図表1)を見てみる。東京23区の人口は約927万人、大阪市は約270万人に対して、名古屋市は約230万人。人口増減率は一極集中が続く東京23区はプラス3.7%と別格だが、名古屋市は1.4%と、大阪市の1.0%を上回っている。人口構造を見てみると(図表2)、東京23区大阪、名古屋の3都市とも、同じよう構造をしているが、高齢者率は、大阪、名古屋、東京23区の順で多く、若年層は名古屋、大阪、東京23区の順に多い。事業所の多い東京23区が最も現役世代が多い傾向にある。世帯数を見てみると(図表3)、東京23区の2世帯に1世帯は単身者世帯であるのに対し、名古屋は東京より8ポイント近く下回る。
三大都市圏で比較すると、働く世代の多い東京23区、ファミリー層が多い名古屋、その中間の大阪、といったところだろうか。
住宅事情を見てみよう(図表4)。まず賃貸住宅の空き家率を見てみると、東京23区の10.4%に対して、大阪は17.1%、名古屋は12.7%と、三大都市のなかでは大阪の空室率の高さが目立つという結果に。
さらに賃貸住宅の建設年の分布をみてみると(図表5)、三大都市ともボリュームゾーンはバブル期の1980~1990年で、全賃貸住宅の4~5軒に1軒は築30~40年という状況にある。三大都市とも同じような分布にあるが、2000年以降の賃貸住宅の割合を見てみると、東京23区、名古屋、大阪の順に多く、特に東京23区で賃貸住宅の供給が目立っていたことがわかる。一方大阪は、三大都市のなかでは築浅物件の割合は少ないという結果に。このことは、前出の空室率にも影響を与えていると考えられる。万博や大規模場再開発が進む大阪では、これから新築物件の割合が多くなるかもしれない。
三大都市の将来人口の推計を見ていこう。近年、日本では人口減少の局面に突入したが、それは大都市・東京も例外ではない。国立社会保障・人口問題研究所の推測によると、東京23区は2035年9767,548人をピークに人口は減少に転じるとされている。2015年の人口を100とすると(図表6)、2040年、東京23区は105.2に対して、大阪は89.6というレベル。一方名古屋は94.7と、大阪の減少スピードと比べると緩やかだと推測されている。
また、黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析で見てみると(図表7~9)、東京23区は江戸川区や葛飾区など、都心から離れた区は人口減少が目立つが、都心部の千代田区、中央区、港区を中心に広範囲で人口増加を示す暖色系が目立つ。一方、大阪は、梅田や難波などの都心部、名古屋は栄などの都心部と限定的。都心回帰という流れは三大都市いずれも共通ではあるが、そのなかでも東京一極集中の流れは、現時点の推測では加速するものと考えられている。
このように、東京、大阪、名古屋の三大都市を見てみると、やはり、東京のポテンシャルが際立つという結果になった。一方で東京と並び称される大阪と比較すると、名古屋のほうが優位な部分も多い。日本の経済の屋台骨ともいえる名古屋の存在感はこれからも健在で、話題が先行する大阪以上のポテンシャルを持っているといえるかもしれない。