吉祥寺…2020年「住みたい街ランキング」第3位
毎年恒例の住みたい街ランキングが発表された。トレンドの移り変わりがあるなか、上位の常連といえば「吉祥寺」だ。今年は3位だったが、以前は5年連続1位という金字塔を打ち立てたこともある。
吉祥寺があるのは、東京都多摩東部、区部と接する武蔵野市。明治22年、吉祥寺、西窪、関前、境の4村と井口新田飛地の合併により武蔵野村が誕生し、昭和22年に市制の施行によって武蔵野市となった。
武蔵野市の中心となるのが「吉祥寺」だが、ここに吉祥寺という寺はない、というのは有名な話。もともとは、1657年、明暦の大火で現在の文京区本郷にあった諏訪山吉祥寺が焼失した際、その周辺で家を失った住民が移り住んだことが始まりで、彼らが愛着をもっていた吉祥寺を地名に付けたのがはじまりだ。
1923年、関東大震災で被災した多くの人が武蔵野地域に移り住んだことで人口が急増。また池袋から成蹊学園が移転してきたこともあり、学生でにぎわう街へと変貌を遂げた。
1970年代になると、1971年に伊勢丹吉祥寺店、1974年に東急百貨店吉祥寺店、東京近鉄百貨店、1978年に現在の駅南口に丸井吉祥寺(以前は小型店が北口にあった)、1980年に吉祥寺PARCOと、次々と大型商業施設が進出し、商業地として大きく発展した。
また吉祥寺といえば商店街や路地の存在は外せない。アーケード商店街としてサンロードとダイヤ街が駅前から伸びるほか、東急裏やかつて近鉄裏と呼ばれるエリアには個性的なショップが並ぶ。戦後の闇市から発展したハモニカ横丁は、最近ではインバウンド客にも人気だ。
最新のファッションと中央線らしいサブカル感が融合する独自のカルチャーは若者を中心に人気を呼び、女性誌を中心に定期的に特集が組まれるような人気の街になった。また吉祥寺人気で外せないのが交通利便性。「吉祥寺」駅は、JR中央線、中央・総武線、京王井の頭線が乗り入れ、新宿と渋谷という、東京でも人気のエリアを15~20分程度で結ぶ。
近年は、「立川」や「町田」が台頭し、武蔵野・多摩エリアで一番の商業地からは陥落。それでも大型商業施設と個性的な商店、飲食店が集積する一方で、全国的にも有名な井の頭公園が駅から5分ほどのところに広がるという、利便性と自然が融合したほどよい街の人気は不動だ。
街の人気が「不動産価格」にも大きく影響
「都会の利便性」と「自然の快適さ」がコンパクトに凝縮されたことで人気の吉祥寺だが、住みたい街=投資に適した街、とは限らない。そこで不動産投資の観点で吉祥寺の街をみてみよう。
まず直近の国勢調査(図表1)を見てみる。武蔵野市の人口増加率は4.3%で、隣接する東京区部の3.7%を上回り、安定した人口増を記録する、人気のエリアだということがわかる。その人口構造は、東京区部とほとんど変わらない(図表2)。若干、若年層(15歳未満)が多いのは、子育て世帯への行政の支援が充実している点、都内でも教育熱の高いエリアであることなどが関係しているのだろう。また単身者世帯率をみてみても(図表3)、東京区部とほぼ同じで、現役世代の単身者世帯は全体の4割弱。特に「吉祥寺」や「三鷹」(北口は武蔵野市)は、交通利便性が高いエリアで、単身者層から好まれる傾向にある。
次に住宅事情を見てみよう。賃貸住宅の空き家率を見てる(図表4)、東京区部の空き家率は7.4%に対し、武蔵野市は1ポイントほど高い8.3%。賃貸物件の建築年の分布をみてみると(図表5)、東京区部も武蔵野市もバブル期を含む80年代に建てられた物件が最も多く、全体の20%前後を占める。一方で、近年、臨海部を中心に新築物件が増えているのに対し、武蔵野市では区部ほど新築物件の供給はみられない。都心回帰の流れもあり、区部よりも空き家率が高まっていると考えられる。
続いて駅周辺の人口の状況を見ていこう(図表6)。「吉祥寺」駅周辺では1世帯当たり平均1.86人と、武蔵市平均1.96人を下回る。新宿と渋谷にダイレクトにアクセスするという交通利便性から、「吉祥寺」駅周辺はより単身者に好まれる傾向にある。また直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)、平均取引価格は4,000万円を超え、1㎡当たりの平均取引価格も市平均45.6万円を大きく上回っている。不動産価格からも、吉祥寺の人気の高さがうかがえる。
「吉祥寺」駅周辺を避ける傾向が加速する!?
人口や不動産の取引状況も、吉祥寺人気を反映したものだったが、この先はどうだろうか。国立社会保障・人口問題研究所によると(図表8)によると、武蔵野市は人口減少期に入っているといわれている。しかし2015年の人口を100とすると、2030年は99.1、2040年は95.4と、減少スピードは緩やかだ。
さらに駅周辺を黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析でみてみると(図表9)、「吉祥寺」駅周辺は、人口減少を示す青系色が目立つ。
都心から17km、新宿から10kmに位置する吉祥寺。都心回帰の流れから、このエリアでは人口が減少するかといえばそうではない。JR中央線の隣駅「西荻窪」「三鷹」駅の周辺は、ともに人口増加が予想されている。つまり今後「吉祥寺を避ける」という傾向が強まるかもしれないのだ。
[図表10]は、「西荻窪」「吉祥寺」「三鷹」、それぞれの駅周辺の1Kの平均家賃を示したものだ。徒歩10分圏内の家賃と徒歩11分以上のエリアの平均家賃を比べると、「西荻窪」駅周辺では、距離による下落率は98.1%、「三鷹」駅では88.8%という水準だ。一方、「吉祥寺」は徒歩10分圏内の平均家賃は10万円越えと街の人気を反映しているが、駅から11分以上となると5.95万円と、下落率は56.9%にもなる。
「吉祥寺」では街の人気が駅周辺に集中し、その効果は徒歩11分以上の周辺には及んでいないといえるだろう。「吉祥寺に住んでいる」という人に話を聞くと、家賃の高い駅周辺は避け、実際は練馬区や杉並区、三鷹市に住んでいるというケースは多い。
いま吉祥寺は、街の魅力が過大評価され、ポテンシャル以上に駅周辺の不動産価格や賃貸価格が高くなっているのではないだろうか。この流れが強まると、街の人気、そのものにも影響を与えてしまうかもしれない。