本連載では、公認不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士の曽根惠子氏、税理士法人アレース代表社員の保手浜洋介氏の共著書、『結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術』(総合法令出版)から一部を抜粋し、ケース別の実例をもとに、身内で揉めず相続税をできる限り少なくするための具体的な相続対策を紹介します。

節税ではなく「散財」になる不動産投資

相続税対策として、お金を使うことを勧めたり、相続税対策として不動産を勧めるものの、その後の投資の回収について十分に検討しない税理士や営業マンが多くいます。

 

確かに、お金を浪費しても相続財産は減りますし、不動産などに投資をするだけで相続税の評価が下がり、相続税の圧縮効果があることは間違いありません。しかし、無駄遣いをしたり、回収できない投資をすることは断じて「節税」とは言いません。

 

「節税」というのは、相続財産の「評価」を下げるなどの結果、相続税の圧縮効果はあるものの、その財産としての「価値」は下がっていないため、最終的にその投資額が何かしらの形で回収されることで、「財産を守るために役立つもの」です。ただ単純に「税金を減らすこと」を節税と呼ぶべきではありません。

 

それほど必要性に迫られていないものを購入したり、投資してもその投資額を回収できなければ、その分が純粋に財産を減らしているにすぎないわけです。それは、「節税」ではなく「散財」です。不必要なものを購入する「浪費」は言わずもがな、不動産投資の場合でも、賃料収入(インカムゲイン)などや売却収入(キャピタルゲイン)などで投資額が回収されない投資は、ただの「散財」にすぎないのです。

 

それでは、財産を減らす「散財」をせず、財産を守る「節税」をするためにはどのようなことを心がければよいでしょうか?

 

まず、当たり前ですが「無駄なものは買わない」ことです。相続に詳しくない税理士さんなどは「相続税が減るから」と、ご自宅の建て替えを勧めたり、高価な電化製品の買い替えを提案したりします。もちろん、近い将来に買い替えが迫られるような場合には、その支出は将来の支出を減らすことから意味はあるでしょう。

 

しかしながら、取り急ぎ現在必要のないものを「相続税が減る」というだけで購入したりするのは、ただの散財にすぎませんので絶対にやるべきではありません。なぜなら、技術は常に進歩していますので、必要のない時には買わずに、必要に迫られてから買ったほうが通常、安くてよいものが手に入るからです。それを必要がないにもかかわらず購入を進めるというのは、ただの浪費にすぎないのです。絶対に取るべきではありません。

 

次に、不動産などの投資についてですが、投資は回収して初めて意味があります。「その投資が生み出す収入」と「投資によって所得税や相続税などの税金が減る効果」を加えても、投資額に満たないような投資は断じてやるべきではありません。まったく収益を上げない不動産を買って「税金が減った」と喜んでも、結局、財産を減らしていることに変わりないのです。

 

むしろ、税金で破産することはありませんが、借入をしたにもかかわらず投資の回収ができなかったりすると、それこそ破産だってあり得るわけです。2018年の『かぼちゃの馬車事件』も、まさにこのケースに当てはまります。

「想定賃料」が周辺賃料と比較して高すぎないか?

不動産投資は、投資の段階である程度、将来の収入・支出を読むことが可能という意味で、比較的判断が簡単な投資と言えます。事業投資は明日の売上げの予測もできなかったりしますが、不動産投資は事前に検討したら、急激に変動するリスクはあまりありません。ですので、不動産投資は、投資の前にしっかりとその投資によるシミュレーションをすることが肝心なのです。

 

そのシミュレーションを行ううえで、どのようにシミュレーションをするべきでしょうか? 不動産会社が使う、いわゆる「表面利回り」などはあまり参考にするべきではありません。なぜ「表面利回り」を参考にするべきでないかというと、これはあくまで、現時点で「想定される賃料」が「満室で運営された」とした場合の、「売上げ」が「投資額」に対してどれくらいの利回りを出すか、の指標にすぎないからです。

 

つまり、その「想定賃料」が周辺相場に比して高めに設定されていたとしたら、その賃料で部屋が全部埋まらず、結果として賃料の引き下げを余儀なくされたり、周辺よりも空室率が高い状態となり、結果として想定したような収入を得られなくなるのです。

 

そのため、その不動産屋さんや建築会社の営業マンが提案してきた提案書の「想定賃料」が周辺賃料の平均的な相場と照らして高すぎることがないのか、「想定空室率」が同様の条件の不動産の平均的な空室率を反映しているのかなど、彼らのデータが適切で、そのデータでこの投資の可否を判断することが妥当であるかどうかを検討することが必要です。最近では、最寄りの駅名やその駅からの距離、間取りなどの条件から、過去10年ほどの平均賃料や空室率の推移などの情報を提供しているシステム会社も存在しています。

 

ご自身の財産をしっかり守るために、不動産会社や建築会社の営業マンの作ってきた数字をそのまま信じるのではなく、その利回りの根拠となる賃料や空室率が適切なのか、あまりにも楽観的な数字になっていないか、新築、築3年、築10年などで大きく下がることが多い賃料収入を過度に楽観的に想定していないか、設定した賃料水準を鑑みて想定している空室率が妥当かどうか、などを十分に吟味してから投資の可否を判断する必要があるでしょう。あなたが大切なご自身の財産を守るために、しっかりご自身で調査を進めるか、信頼できる「資産に関するプロフェッショナル」に相談してください。

不動産投資は「投資前のシミュレーション」が最も大事

このように相続税対策は数あれど、本当にお客様の望まれる結果に結びついているケースはそれほど多くはありません。我々はこれまで様々なトラブルを抱えたお客様からご相談を受けましたが、中には、残念ながら我々にご相談頂いた時には既に業者に騙されて不良な資産に投資してしまっており、将来、首が回らなくなることが目に見えてしまっている方もいます。

 

税金対策のために、多額の借金を負って不動産投資をした結果、その不動産が思った収益を上げなかったため、最終的に非常に苦しい思いをされている方がいるのです。もちろん、ご相談頂いた以上は、我々はできる限りのことはしますが、投資の前にご相談頂ければ、この方はこのような辛い思いをしなかっただろうと思うことがあります。

 

繰り返しますが、不動産投資は投資前のシミュレーションが最も大事です。最初の一歩があなたの人生を左右するのです。

 

簡単な対策、例えば毎年110万円ずつの贈与であったり、生命保険の「法定相続人×500万円の非課税枠」などは誰がやってもほとんど間違いはありませんので、あまり心配する必要はありませんが、不動産の法人化や不動産投資など難易度が高かったり、失敗するととんでもないリスクを抱える可能性がある対策を、必要な知識や経験がない人が不用意に進めてしまうと、かえって費用が高くついたり、借金を返済できずに多くの財産を取られてしまったり、税務署から指摘されるリスクが格段に上がってしまうようなことが少なくありません。

 

『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)という番組で、エベレストにチャレンジするにあたって女性タレントのイモトアヤコさんも「シェルパ」という現地の経験豊富なガイドをつけてました。同様に、初めて航海する荒海に水先案内人も付けずに、ガイドブック片手にイカダで挑戦する命知らずな人が生き残れる可能性は低いでしょう。

 

税金対策も同じです。ガイドをつけずに命の次に大事な財産を危険に晒さらすような愚は犯すべきではないのです。税金対策を適切に、かつ効果的・効率的に進めるためには、その対策について経験豊富な「資産に関するプロフェッショナル」に相談して、その対策を取ることの必要性とメリット、その対策のデメリットとリスク、かかる費用や今後のスケジュールなどのアドバイスを受けたうえで対策を進めていくことが財産を守るために必要なのです。

 

税金対策に関する水先案内人として、税金に詳しい「資産に関するプロフェッショナル」にご相談することが、何よりも大事な成功と失敗の分け目です。大きな投資に先立っては、「資産に関するプロフェッショナル」を探して、その人にしっかり相談するようにしてください。

 

※『かぼちゃの馬車事件』
「かぼちゃの馬車」とは、株式会社スマートデイズ(東京都中央区)という不動産会社が展開していた女性専用シェアハウスのブランドネームのこと。家賃は管理費込みの4万円程度で、地方から上京する女性を主なターゲットにしていました。インターネット代や光熱費は管理費に含み、敷金・礼金・仲介手数料は不要、個室にはベッドや冷蔵庫などの必要設備が用意されており、鞄ひとつで即入居できるというのが謳い文句。

 

同社は副収入を得たい会社員などをオーナー対象とし、「かぼちゃの馬車」の建設から賃貸の管理運営までを請け負うサブリース契約を結びました。4年弱で八百棟を販売。しかし、同社から不動産オーナーへのサブリース賃料の支払いが困難になり、ついに同社の破産手続きの開始が決定しました(2018.4)。それにより、高金利のローンを組んでいたオーナーは融資した銀行へのローン返済ができなくなり、多くが自己破産を強いられたか、もしくは自己破産目前の状況に追い込まれ、社会問題化しました。

 

 

曽根惠子
公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 

保手浜洋介
税理士法人アレース 代表社員

 

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