本連載では、公認不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士の曽根惠子氏、税理士法人アレース代表社員の保手浜洋介氏の共著書、『結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術』(総合法令出版)から一部を抜粋し、ケース別の実例をもとに、身内で揉めず相続税をできる限り少なくするための具体的な相続対策を紹介します。

「少人数私募債」を使った節税が行われていたが…

「少人数私募債」というのは「小規模な社債」のことで、株式会社の資金調達法として今も利用されています。しかし、以前はこの「少人数私募債」を使った節税がかなり行われていました。

 

どういうスキームであったかというと、以前、少人数私募債の利子所得は、税率が20%(所得税15%+住民税5%)の源泉分離課税が適用されていました。つまり、中小企業の役員が総合課税の対象となる給与(所得税・住民税と合計して最大約55%)ではなく、同額を私募債の利子として支払いを受ければ、その税率差が節税になったのです。

 

しかしながら、2013年の税制改正により同族会社が発行した社債の利子で同族会社の役員等が支払いを受けるものは「源泉分離課税」ではなく、他の所得と通算して最高税率55%となる「総合課税」の対象になりました。これによって、多くの少人数私募債を使った節税スキームは役割を終え、私募債の償還が進んだといわれています。

 

この少人数私募債は、確かに2013年の税制改正以前までは非常に有効な節税スキームとされていました。しかしながら、現在は節税スキームとして効果を維持している少人数私募債はほとんどありません。

 

このように、実行当時は節税効果があっても、その後の税制改正で効果がなくなってしまうものは少なくありません。税金対策はその瞬間で効果を図ることは適切ではなく、継続的にPDCA を回しながら効果が維持・改善するように対策を繰り返していくべきものです。刹那的な対策ではなく、しっかりと地に足をつけた継続的な対策を立案・実行していくことが肝要です。

不動産の法人化に伴って発生する「追加費用」

他にも、所得税対策や相続税対策など、ひとつの税金の対策として実行したものの、対策の結果として、他の税金や社会保険などの負担が増え、対策の効果が思ったよりも出ないというケースが少なくありません。例えば、私が相談を受けた中にこのようなことがありました。

 

本連載第6回でも述べたとおり、所得税や相続税対策として同族会社に不動産を譲渡して、不動産を法人化する対策が多く行われていますが、この法人化の対策は当然良いことばかりではありません(関連記事『税務当局からよく指摘される「やってはいけない税金対策」とは』参照)。

 

実際、この対策に限らず税金対策はひとつ、または複数の税金を減らす効果がある代わりに、別に税金や費用がかかったりすることが多いわけで、その支出を考慮に入れなければ対策の本当の効果を測定することができません。その追加費用を考慮しても、メリットのほうが大きい対策のみを実施すべきなのです。

 

対策提案の経験が乏しい税理士やコンサルタントが対策を主導すると、この追加の負担を考慮せず、結果として損をしたり、思ったより効果が上がらなかったりすることが多く発生します。

 

私が見た失敗例としては、しっかり対策を講じていけば消費税がかからずに対策を進めていけたにもかかわらず、後先を考えずに不動産の法人化を一気に進めた結果、本来払わなくて済むはずの消費税と所得税を5,000万円近くも無駄に払ってしまっているケースがありました。

 

不動産を法人に移すにあたっては、以下のような費用がかかる場合があります。

 

不動産の法人化に伴って発生する追加費用

 

1.登録免許税  :不動産の名義を変更するための登記費用

2.不動産取得税 :不動産を購入・建築した場合にかかる税金

3.譲渡所得税  :不動産を売却して利益が出た場合にかかる税金

4.消費税    :消費税の課税事業者が建物等を売った時にかかる消費税

5.会社設立費用 :不動産の管理をする同族会社を設立した場合にかかる費用

6.税理士報酬  :個人事業から法人化すると通常報酬が増加する

7.社会保険料  :従来の個人事業を法人化し、法人から役員報酬として受け取った場合にかかる社会保険料負担(通常、国保より高くなる)
 

法人に不動産を移す場合、1と2は絶対にかかるものであり、5と6はいつどのようにやっても金額が変わるわけではありませんので、「対策を実施すべきかどうか」の判断においては対策の効果を測定する上で検討は必要なのですが、対策のスケジュールを決めるうえでは重要ではありません。

 

しかし、3と4は対策の進め方で負担額が大きく変わってきますし、7の社会保険料についても社会保険の仕組みを理解した人が対策を取ると負担の増加を抑えることも可能です(7についての詳細な説明は本稿では割愛します)。

 

つまり、不動産の法人化と一口に言っても、この3と4については、いつどのように進めるかによって、負担が大幅に異なるので注意が必要なのです。一番よくある失敗としては、3の所得税が多額になるケースがあります。

 

これは、多くのケースで建物の鑑定評価を取った結果生じるものです。確かに、同族会社とオーナーとの間の売買価格は本連載第6回でも述べたとおり、「時価」は「実勢価格」等の相場価格なので鑑定評価を使うのは間違いではありません。

 

しかし、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼して費用をかけてわざわざ高い評価をつけてもらって、結果として高い所得税を払わされるのは、ダブルパンチ以外の何物でもありません。こんなことをしなくても、通常、建物の場合は「簿価」=「時価」なのです。

 

ちなみに、「鑑定評価額」が時価を下回っている場合は鑑定評価額にするのはよいと思いますが、その場合、その物件の収益力に問題があることが多いので、対策を取るべきかは慎重に進めましょう。「簿価」で譲渡していれば所得税がかからないわけですから、簿価で譲渡するのが一番楽で、税負担もなく、税務署からも間違いを指摘されるリスクも通常はありません。

 

というのも、「建物」は建てた瞬間の「時価」=「建築費」であり、それが時間が経って劣化していった分を価値として落としていけば、その時点の「時価」になるはずで、正にそれが減価償却後の「簿価」なのですから。

建物を個人から法人に移す際かかる「多額の消費税」

この不動産の法人化の対策で、もうひとつよくある失敗として「消費税」の問題があります。その個人オーナーがマンションなど住居系の不動産投資だけの場合はよいのですが、その方が法人向けのテナントなどを持っていて、課税売上げが1,000万円以上ある場合、特に課税売上げが5,000万円以上ある場合、建物を個人から法人に移したときに多額の消費税がかかります。

 

これを考慮して、段階的に課税売上げを減らしていく対策を考えるべきなのですが、不動産の法人化の対策に不慣れな方が主導すると、消費税を検討に入れない結果、無駄な税金がかかってしまいます。つまり、仮に簿価2億円の建物を法人に移した場合、その建物を個人に移しただけなのに、1,600万円もの消費税が法人にかかってしまうのです。

 

そこで、このような場合は簿価が多額に残っている建物や住居系の建物を法人に移す前に、建ててから時間が経って減価償却が進んだテナント物件、つまり、簿価は少なくなっているものの、課税売上げの金額が大きいものを先行して同族会社に売却することで、課税売上げを減らし、消費税負担が発生しないようにしてから、簿価が大きい物件やレジデンス物件を移すことがポイントなのです。

 

このように、同じ不動産の法人化でも、誰がその対策を進めるかによってその効果が異なりますので、不動産の法人化に詳しい「資産に関するプロフェッショナル」にご相談することをお勧めします。

 

 

曽根惠子
公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 

保手浜洋介
税理士法人アレース 代表社員

 

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