本連載では、公認不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士の曽根惠子氏、税理士法人アレース代表社員の保手浜洋介氏の共著書、『結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術』(総合法令出版)から一部を抜粋し、ケース別の実例をもとに、身内で揉めず相続税をできる限り少なくするための具体的な相続対策を紹介します。

不動産が多く、相続税も多額…現金はあるが足りない

[図表1]
[図表1]
[図表2]
[図表2]

 

【相談内容】農家で土地が財産だが、これからどうすればいいか

伊藤さんの父親は、夫婦で農業をしながら、少しずつ土地を増やしてきました。自宅周辺だけでなく、隣接市の農地も購入し、車で通いながら耕作してきたということです。

 

平成の初めになると土地の高騰が著しく、税金の負担が増えてきたので、農地は2ヶ所だけとし、1ヶ所は生産緑地の指定を受けました。他の土地は市へ貸し出し駐輪場や市民農園に利用してもらい、固定資産税の優遇を受けるようにしました。

 

また、社宅にしたいという企業にも貸しています。こうした状況で農業を続けてきましたが、倒れて体の自由が利かなくなってしまい、車の運転や耕作をすることが困難になりました。いよいよ今後の相続や財産継承について対策を取りたいが、どのようにすればいいかと長男が相談に来られました。

 

●相続プラン1 現状分析と課題の確認

【感情面】同居する長男が不動産も守ることになる

伊藤さんの姉とは暗黙の了解ができているはずだが不安もある

【経済面】不動産が多いため相続税も多額 現金はあるが足りない

土地が71.8%あり明らかにバランスが悪い

【収益力】賃料収入があり収益力は高い

総資産収益力4.15% 賃料収入1億300万円/ 資産総額24億8,000万円

【対応力】分割金、納税資金不足

納税すると預金がすべてなくなり、不安が大きい

 

[図表3]相続力
[図表3]相続力

 

〇コンサルタントより

伊藤さんの父親は農業だけでなく、早い時期から賃貸事業もされています。所有地を活かして企業の社宅などに貸しており、賃貸事業は安定しており、大きな不安はありません。しかし、まだ駐車場や貸農園など大きな土地が更地の状態です。このままでは多額の相続税がかかることが予想されます。

 

農家であれば納税猶予が選択肢ですが、伊藤さんの父親の所有地はすべて市街化区域内農地の宅地です。また伊藤さん自身も妹も農家を続ける意思がないため、納税猶予の選択肢はありません。そうなると、さらに積極的な対策をしないと納税のために預金をすべて充当しないと足りない状況と言えました。

不動産評価と特例の適用で大幅な節税効果が得られる

●相続プラン2 不動産評価と特例の適用効果の検証

特例1 地積規模の大きな宅地の評価(マンションA~C) ▲1億7,300万円

特例2 地積規模の大きな宅地の評価(資材置き場) ▲8,900万円

特例3 地積規模の大きな宅地の評価(テナントビル) ▲9,600万円

特例4 地積規模の大きな宅地の評価(スーパー) ▲7,500万円

特例5 小規模宅地等の特例 ▲7,300万円

財産の8割が土地で、500㎡以上で適用できる地積規模の大きな宅地評価が採用できます。小規模宅地等の特例も組み合わせると大幅な節税効果が得られることが確認できました。

 

●相続プラン3 対策と節税効果の検証

◇対策1【土地活用】賃貸建築  ▲2億6,000万円

駐車場に賃貸マンションを建てて相続税評価を減らし、収益を上げた

◇対策2【土地活用】農地に老人ホーム ▲3億4,000万円

収入のない農地に老人ホームを建てて相続税評価を減らし、収益を上げた

◇対策3【購入】一棟ビル購入 ▲4億円

預金を解約、都内のテナントビルを購入した

 

〇対策の内容

所有地はいずれも立地がよいので、保有されることを前提にした対策としました。2ヶ所とも最寄り駅に近く賃貸需要はあるものの、同じ賃貸住宅では競合するため、ひとつは高齢者住宅としました。高齢者住宅は30年の一括借り上げで、空室の不安はありません。また、最寄り駅徒歩3分駐車場には賃貸マンションが適切だと判断しました。さらに、預金を解約してテナントビルも購入しました。

 

●対策後財産評価 10億8,600万円

●相続税 3億3,699万円

◇特例 地積規模の大きな宅地の評価+ 小規模宅地等の特例 ▲5億600万円

◇各対策と相続税評価減

購入、活用、資産組替評価減合計 ▲10億円

対策の評価減合計 ▲15億600万円

◇相続税の計算

対策前の財産 24億8,000万円

対策後の財産 9億7,400万円

基礎控除(相続人3人) 4,800万円

課税財産 9億2,600万円

相続税 3億3,699万円

※相続税の計算の仕方

子 9億2,600万円÷3人=3億866万円

(3億866 万円×50%-4,200万円)×3人=3億3,699万円

計 7億8,459万円

相続人は4人だが、実子がある場合は養子1人分だけが基礎控除となる

 

◆対策後の相続力判定◆

【感情面】対策は姉にも報告しており、理解を得ている

【経済面】相続税69.95%減 7億8,459万円の節税

【収益力】総資産収益力 19.09%

賃料収入1億8,600万円/資産総額9億7,400万円

【対応力】納税は現金でできる見込みとなり、不安はなくなった

 

〇コンサルタントより

伊藤さんの父親の所有地がいずれも立地がよいため、土地活用をして維持することをお勧めしました。2ヶ所とも長期のサブリース契約が見込めましたので、大きな不安がなく、取り組んで頂けます。土地活用するには建築費の借入は不可避ですが、安定した家賃収入が得られるように事業内容と収支を組むことで不安は解消できます。

 

 

曽根惠子
公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 

保手浜洋介
税理士法人アレース 代表社員

結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術

結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術

曽根 惠子 保手浜 洋介

総合法令出版

「相続は誰に相談すればいいのかわからない」「いつ、どのような対策を講ずればいいのか分からない」。昨今、聞かれる声です。身内で揉めず、相続税をより少なくするにはどうすればいいのか――。相続には個々の事情に合わせ、…

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