税体系を知らない人が行う「税金対策」の危うさ
日本には非常に多くの税金があり、資産家は特に多くの税金に苦しめられています。
例えば、個人で多くの所得がある方は所得税に苦しめられ、法人で事業をやっているとその方には法人税が重くのしかかってきます。財産を相続した人は相続税、モノを買ったら消費税、不動産を持ったら固定資産税、不動産の名義を変えたら登録免許税などなど、日本では何でもかんでも税金がかかるのです。
このような状況の中で、重い税金に苦しめられる多くの資産家が、これまで多くの節税策を試みてきましたが、税金の全体像を知らない人が主導して行うと、ひとつの税金を減らしたつもりでも他の税金で多くかかったり、別の費用、例えば社会保険料や税理士の顧問料などが高くついたり、対策を取ったあとで制度の穴が防がれて効果が出なくなったりと、本当によい結果に結びついているケースは意外に少ないのが実情なのです。
そこで、やってはいけない「対策の失敗例」をご紹介したいと思います。
時価の「算定」を間違え、税務署に指摘されるケースも
最近、資産家が税務署から課税逃れを指摘され修正を余儀なくされるケースが増えてきていますが、これはその資産家が専門家に一切相談せず勝手に対策を取った結果というよりも、相談した顧問税理士やコンサルタントなどが税体系を十分に理解していなかったため、後で税務当局から指弾される結果となってしまった方が多いのが実情です。そこで、よく税務当局から指摘されている「やってはいけない対策」をご紹介しましょう。
<失敗例・同族会社に不動産を売却する際の価格設定>
個人の所得税・住民税は、その人の稼ぎが多ければ多いほど税率がドンドン上がり、最高税率は約55.945%まで達する非常に税負担率の重い税金です。そのため、所得税負担を減らすために、稼ぎが多い人は会社を立ち上げて法人で事業を行うことが多いのは、ご存じの方も多いでしょう。
その場合、会社の稼ぎに「法人税」という税金がかかるのですが、この場合は会社の稼ぎが多くても税率は30%台前半で、ほぼ一律です(利益が800万円以下の部分には軽減税率があります)。この個人の税率と法人の税率の税率差分を、法人に事業利益を移すことによって税金が浮くのです。
とはいえ、不動産の賃貸業をやっているいわゆる地主さんが、同族会社に不動産の賃貸事業をさせて、それなりの利益を個人から同族会社に移すには、同族会社に不動産(特に建物)を売却することが必要です。この同族会社への不動産の売却価格は「時価」で行う必要があるのですが、「時価」の算定を間違えてしまい、税務署から指摘されているケースが多くあります。
ここでお話しするお客様は、東京の都市再開発計画地の中にある不動産を保有する地主であり、その土地には近い将来に大型物件が建築されることになっています。今後、時価や賃料収入の大幅な値上がりが予想される場所であったため、そうなる前に同族会社にその当時の「時価」で移そうとされていました。しかし、あまり資産税に詳しくない顧問税理士が、その不動産の「取引価格」を「相続税評価額」で算定することを提案するという大きな間違いを犯していました。
セカンドオピニオンを請われた我々が事前にその間違いに気づいて指摘したため、その方は税務リスクを回避することができました。そうしなければ将来、非常に大きな税務リスクを抱えていたはずです。