ロサンゼルスを本拠とする世界最大(2018年の収益に基づく)の事業用不動産サービス会社、シービーアールイー株式会社(CBRE)が、アジア太平洋地域のテナントとビルオーナーに対して行った調査レポート「The Evolution of Co-Working: Supporting the Emergence of the New Eco-System」の日本語抄訳版から一部抜粋し、テクノロジーが現在のオフィス環境や働き方に今後どのような影響を及ぼす可能性があるか見ていきます。

今後は「立地がすべて」とは限らない?

■変わる会社組織のあり方

テクノロジーの進化が多くの職種に影響を及ぼすことは間違いない。今後どのような職種が増える(減る)と考えているかの調査では、増加の回答率が最も高かったのはIT部門、次いでオフショアリング/アウトソーシング部門であった。

 

ITといっても、企業はビジネスの成長に貢献するITプロフェッショナルの確保に注力しており、サポート的な業務はアウトソーシングやクラウドへ移行する動きも出てきた。グローバル企業には、IT分野で優秀な人材を確保するため、コワーキングスペースやインキュベーションセンターを活用し始めた例もみられる。

 

アウトソーシング/オフショアリング部門についても、テクノロジーを企業のビジネスの成長に活かすため、外部の優秀な人材とパートナーシップを組むことが手段の一つとして捉えられている。

 

[図表1]今後3年間の従業員数の見通し
[図表1]今後3年間の従業員数の見通し

 

■企業の不動産戦略が変わる

これまでは、まずオフィスを構える場所が選ばれ、事業ニーズに即して内装工事が行われ、最後に従業員が必要とするテクノロジーを導入する、というのが基本的な流れであった。しかし、テクノロジーの進化によって、働き方、人員構成が変わっていくことに伴い、従来の流れは大きく変わろうとしている。まずはどのようなテクノロジーがあり、それがビジネスの成長にどう貢献するのかを明らかにしたうえで、次にそれらを使いこなす人材の採用や育成が検討される。オフィスは、そのような人材の確保・育成、多様な働き方をサポートするという観点から選ばれることになるだろう。

 

[図表2]テナントがワークプレイスを考える際に検討する項目(優先順位)
[図表2]テナントがワークプレイスを考える際に検討する項目(優先順位)

モビリティがもたらすオフィス需要の変化

ビジネスを変えるスマートフォン

テクノロジーの進化というと、AIやVR、 3Dプリンターなどが例として挙げられるが、本調査結果でみる限り、ビジネスに最も 影響を及ぼしているテクノロジーはスマートフォンである。これはAPAC全体でも、日本においても同じ調査結果であった。600万種類にものぼるアプリの存在こそが、スマートフォンの有用性を高めていると考えられる。

 

しかし、不動産業界についていえば、アプリの導入はまだ黎明期である。会議室の予約や食事の注文、空調の調整など、複数のオーナーやテナントで使われているアプリはまだ極めて少ない。

 

[図表3]ビジネスに影響を及ぼしているテクノロジーは?
[図表3]ビジネスに影響を及ぼしているテクノロジーは?

 

 

[図表4]テクノロジーの導入で変わる働き方・働き手に関わる変化

[図表4]テクノロジーの導入で変わる働き方・働き手に関わる変化

 

■モバイルな働き方が可能に

テクノロジーの進化が働く環境へ及ぼす影響では、「モビリティが高まる」との回答率が最も高く、働き方の自由度が高まることを大多数の企業が予想。実際、働く場所として多様な選択肢を提供するワークプレイス(ABW)も浸透しつつある。

 

テクノロジー導入による「人件費の削減」については、自動化できない業務を担う人材は市場価値も高く、一人当たりの人件費は増加するとのAPAC全体の見方に対し、日本では業務の効率化で残業代が減る可能性の方に焦点が傾斜しているようだ。

 

■広がるテナントの選択肢

今後のオフィス需要に関する調査では、 50%のテナントが減少すると回答。従業員数の減少のほか、スペースの効率的な利用が理由として挙げられた。一方、ビルオーナーはやや楽観的で、減少すると回答した割合は32%。スタートアップ企業や新たな産業からの需要が期待されているようだ。  

 

また、オフィス外でのモバイルな働き方が可能な現在、他社との情報共有・交換が推奨されるトレンドが、コワーキングスペースなどのシェアオフィスに対する需要の源となっており、約50%のテナントが今後利用を増やすと回答。2019年に施行予定のIFRS第16号の新リース会計基準もまた、それらの利用を後押しする可能性がある。 賃貸借期間12ヵ月以上のリースはすべて負債としてバランスシートに計上しなければならないが、コワーキングスペースのメンバーシップであれば経費として計上が可能である。

 

ビルオーナーは、オフィス需要の新たな源として、約70%がシェアオフィスを歓迎。所有物件に独自のコワーキングブランドを立ち上げるケースも出始めている。

 

[図表5]モバイルワークでスペースの使い方はより効率的に
[図表5]モバイルワークでスペースの使い方はより効率的に

 

[図表6]シェアオフィスの拡大
[図表6]シェアオフィスの拡大

テクノロジーの活用で「人」が中心のワークプレイスへ

■CRE戦略に寄与するテクノロジー

ワークプレイスに最もインパクトを与えるのは、モビリティを高めるテクノロジーだと、多くの企業が回答している。モビリティのニーズの高まりに対応し、フリーアドレスやABWなどのワークプレイスを採用する企業も徐々に増加している。

 

一方、こうしたオフィスでは、実際の利用状況を把握するのが難しいため、新たなテクノロジーへの投資が必要になるだろう。収集したデータを分析し、従業員の生産性、オフィス運営の効率性、離職率やワークプレイスのデザイン評価などを定量的に把握することで、不動産ポートフォリオの最適化に役立てている企業の事例も増えつつある。

[図表7]どのようなテクノロジーがワークプレイスに変化をもたらす?
[図表7]どのようなテクノロジーがワークプレイスに変化をもたらす?

 

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※本連載は 『BZ空間誌 2018年春季号』掲載記事掲載当時のものです。
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