※本連載は、弁護士法人Martial Arts代表、弁護士・堀鉄平氏の著書、『弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント』(日本法令)から一部を抜粋し、ワケあり物件(凹みがある状態)を法的知識を駆使して安価で手に入れ売却する「オポチュニティ型」と呼ばれる投資手法を紹介していきます。今回は、借地権者が地主から「底地」を購入する方法について見ていきます。

朽廃や滅失した場合の「借地権」…旧法と新法の違い

(ⅲ)借地上の建物が朽廃や滅失した場合の借地権の行方

 

ア)旧法の場合

 

旧法の適用がある借地権の場合、「朽廃」による借地権消滅の制度があるので(旧法2条1項ただし書)、注意が必要です。裁判例によれば、朽廃とは「建物に自然に生じた腐食損傷等により、建物としての利用に耐えず、全体として建物としての社会経済上の効果効用を喪失した状態をいうものであり、部分的な廃損があるだけでは朽廃とはいえないし、通常の修繕によって従前の効用を全うし得る場合にも朽廃にはあたらない。」と解釈されています(東京地判平成21・5・7)。

 

この朽廃に該当すると、法定存続期間により30年ないし60年という借地期間があっても、その途中で建物が朽廃すれば、借地権は消滅します(最判昭和37・7・19民集16巻8号1566頁)。ただし、有効な約定存続期間がある場合には、適用はありません。旧法2条2項で、「前項の規定に拘わらず」に契約上の期間の満了によって消滅すると規定されているからです。

 

以上の朽廃のほかに「滅失」という概念もあります。こちらは火災や地震によって建物が大きく破損してしまったり、完全になくなってしまったりすることを指します。この滅失に関しては、借地権がなくなることはありません。また、朽廃では借地権自体がなくなるので新しく建物を建築することもできませんが、滅失の場合は建物を再建築することが認められています。

 

そして、旧法では、借地権消滅後に土地を使用継続する借地人が、建物を所有していなくても、地主が遅滞なく異議を述べないかぎり、法定更新することができます(旧法6条2項では、建物があるときは地主の異議には正当事由が必要と規定されていますので、建物がない場合の法定更新を前提としています)。

 

また、借地上の建物が滅失した場合において、借地権者の存続期間を超える建物再築について、地主が遅滞なく異議を述べないと、旧法においては、従前の建物が滅失したときから堅固建物については30年、非堅固建物については20年の期間で法定更新されるものと定められています(旧法7条)。

 

<旧法>

第7条 借地権ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ残存期間ヲ超エテ存続スヘキ建物ノ築造ニ対シ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ借地権ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ30年間、其ノ他ノ建物ニ付テハ20年間存続ス但シ残存期間之ヨリ長キトキハ其ノ期間ニ依ル

 

イ)新法の場合

 

他方で、新法では、「朽廃」による借地権消滅の制度を採用しませんでした。ただし、借地権の存続期間が満了した時点において、建物の存在を更新請求と法定更新の要件としています(新法5条1項2項)。建物が存在しない場合には、原則として更新はされませんので、借地人は要注意です(この場合、合意更新するほかありません。ただし、地主の妨害によって建物滅失後再築ができなかった場合には、建物不存在を理由に借地権者の更新請求権を否定することは信義則上許されないとした裁判例があります(最判昭和52・3・15判時852号60頁))。

 

そこで、借地人としては、存続期間満了前に建物が滅失した場合は、建物を再築しようとします。そして、その再築が当初の存続期間中であれば、再築について地主から承諾を得ている場合は新法7条1項で存続期間が延長されます。承諾を得ていないときでも、借地権者が存続期間中に建物を再築するのは自由ですが、期間満了の時点で契約の更新ができるのかという場面になります(6条)

 

問題は、新法6条の正当事由を判断するにあたり、地主の承諾なく建物を再築した事情を借地権者に不利な事情として考慮できるかです。同条の文言上「借地に関する従前の経過」に関する一事情として考慮できる余地がありますので、建物滅失の事情、建物再築の経緯、借地権者による地主の承諾を得るための努力とこれに対する地主の対応、借地権の残存期間等を総合的に考慮して、借地権者に有利または不利な事情として考慮すべきと解されています。逆に言えば、地主の承諾なく再築したからといって、必ず更新拒絶されるわけではないということです。

 

また、更新後に借地権者が建物を再築する場合には、承諾を得ている場合にはやはり存続期間延長となり(新法7条1項)、承諾がない場合には地主からの解約の問題となります(新法8条2項)。新法8条2項の地主による解約権は一種の法定解約権であり、旧法上は原則自由であった更新後の建物再築について、新法は、更新後の建物再築は地主の承諾を要することとして、承諾のない再築に対しては借地権を消滅させるというもので、借地権者にとっては極めて不利な規定と言えます。

 

そこで、借地人が、残存期間超過の建物をどうしても建てたいというときは、裁判所の代諾許可を求めることができることにしました(新法18条)。これにより、借地人の保護をある程度図りました。

 

<新法>

(建物の再築による借地権の期間の延長)

第7条 借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを合む。以下同じ。)があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から20年間存続する。ただし、残存期間がこれより長いとき、又は当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間による。

 

(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)

第8条 契約の更新の後に建物の滅失があった場合においては、借地権者は、地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。

 

2 前項に規定する場合において、借地権者が借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、借地権設定者は、地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。

 

[図表2]朽廃と滅失
[図表2]朽廃と滅失

 

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

掘 鉄平

日本法令

本書は、弁護士業務のかたわら、不動産投資家としても成功をおさめている著者が、その両方の視点から、不動産の投資・経営に有益な法律知識と、それを活かした資産拡大の方法について解説した、類を見ない1冊。法律に馴染みの…

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