※本連載は、弁護士法人Martial Arts代表、弁護士・堀鉄平氏の著書、『弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント』(日本法令)から一部を抜粋し、ワケあり物件(凹みがある状態)を法的知識を駆使して安価で手に入れ売却する「オポチュニティ型」と呼ばれる投資手法を紹介していきます。今回は、「瑕疵担保責任」の免責を希望している売主の物件の買い方について。

売主が宅建業者で、買主が宅建業者でないケース

(1)凹みの理由

 

売主が宅建業者の場合で、古いビルやマンション等を売りに出している場合で、売買条件として「瑕疵担保責任免責」を希望しているケースを見かけます。築年数が古いので、多少なりとも瑕疵がある可能性があり、売買の決済後にそれについて責任を追及されるのは避けたいという心理です。

 

買主からすれば、瑕疵担保責任を免責にする代わりに物件価格が安くなっていれば、ある意味お買い得と言えます。引渡し後、すぐに建物を解体して、建替えを想定している場合には、既存建物に瑕疵があってもあまり問題にはなりません。

 

したがって、瑕疵担保責任免責という凹みがあっても気にならない買主にとっては、物件を安く購入できる機会となります。なお、前述の通り、瑕疵担保責任は、民法改正(2020年4月1日施行)により、契約不適合責任に改められます(改正民法562条ないし564条)。

 

(2)必要な法的知識

 

では、民法で定められている瑕疵担保責任を免除することができるのでしょうか。この点、瑕疵担保責任について、民法では566条を準用する570条によって、瑕疵担保責任の期間について、買主が瑕疵を知ったときから1年以内に解除または損害賠償の請求をしなければならないと規定しています※1。

 

※1 民法改正により、買主は、瑕疵を知ったときから1年以内にその旨を通知するだけでよいことになります。

 

ただし、瑕疵担保責任は任意規定ですので、原則として、当事者の特約により責任の内容や瑕疵担保責任を負担する期間などを軽減することもできます。よって、瑕疵担保責任の免責は当事者間の特約で原則可能です。

 

<民法>

(売主の瑕疵担保責任)

第570条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

 

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)

第566条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。

 

2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。

 

3 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。

 

ただし、免責特約を締結した場合であっても、売主が知っていながら告げなかった事実については責任を免れることはできません。

 

<民法>

(担保責任を負わない旨の特約)

第572条 売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

 

これに対し、宅建業法は、宅地建物取引の公正の確保および消費者保護の要請から、宅地建物取引業者が売主となって取引する場合の宅建業者の責任を重く定めています。

 

<宅建業法>

(瑕疵担保責任についての特約の制限)

第40条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物の瑕疵を担保すべき責任に関し、民法(明治29年法律第89号)第570条において準用する同法第566条第3項に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。

 

2 前項の規定に反する特約は、無効とする。

 

宅建業法40条は、要するに、宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者でない者が買主である場合は、瑕疵担保責任について民法より買主に不利な特約をしてはいけないというのが「原則」だということです。

 

ただし、以上は原則で「例外」が1つだけあり、瑕疵を担保すべき責任に関し、民法に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約だけは例外的に認められます。民法566条3項では、買主が事実を知ったときから1年以内に行使することになっており、逆に言えば、買主が瑕疵の事実に気付かなければ、引渡しから何年経過しても瑕疵担保責任は存続することになりますが※2、買主が瑕疵の事実を知ろうが知るまいが、売主が瑕疵担保責任を負う期間を引渡しから2年間のみとする特約は有効となるという意味です。

 

※2 ただし、瑕疵担保による損害賠償請求権は引渡しから10年間の消滅時効にかかるとされています(最判平成13・11・27民集55巻6号1311頁)。

 

とはいえ、いずれにせよ、売主が宅建業者で、買主が宅建業者でないケースでは、瑕疵担保責任を免責とする特約はできないことになっています。

 

なお、この条項は消費者保護のための条項ですので、宅建業者同士の取引には適用されません(宅建業法78条2項)。

 

<宅建業法>

(適用の除外)

第78条 (略)2第33条の2及び第37条の2から第43条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。

買主が非宅建業者でも瑕疵担保責任を免責できる裏技

(3)凹みの戻し方

 

当方が宅建業者でない場合でも、何とか「瑕疵担保責任免責」を条件とする物件を宅建業者から購入したいというケースでは、裏技があります。買主から、あえて売主の瑕疵担保責任を免責としたい理由は、そうでないと当該物件を売ってもらえない場合があるからです。

 

前述のように、宅建業法78条2項から、買主が宅建業者であれば、売主が宅建業者であっても瑕疵担保責任を免責することができます。そこで、売主と買主の中間に宅建業者に入ってもらい、「売主→中間売主」と「中間売主→買主」という2本の売買契約を締結することで、第1取引の売主の瑕疵担保責任を免責することができます。

 

このスキームでは、第2取引の中間売主→買主の間では瑕疵担保責任を免責することはできませんが、当初売主の瑕疵担保責任を免責することに主眼がありましたので(そうでないと物件を売却してもらえないのです)、よく使われる手法です。中間売主としては、買主から瑕疵担保責任を追及されるリスクを負う一方で、当初売主には責任追及できないわけですから、通常は利益を乗せて売買することになります。

 

なお、契約は2本に分かれますが、登記は中間省略登記により、当初売主→買主へ直接移転する方法(第三者のためにする契約)をとることが一般的です。登録免許税や不動産取得税を二重に発生させないためです。

 

 

[図表]当初売主の瑕疵担保責任を免責するスキーム
[図表]当初売主の瑕疵担保責任を免責するスキーム

 

堀鉄平

弁護士法人Martial Arts/代表 弁護士

 

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

掘 鉄平

日本法令

本書は、弁護士業務のかたわら、不動産投資家としても成功をおさめている著者が、その両方の視点から、不動産の投資・経営に有益な法律知識と、それを活かした資産拡大の方法について解説した、類を見ない1冊。法律に馴染みの…

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