土地の権利関係が複雑な場合、事実上売却が困難に…
(1)凹みの理由
相続を契機に不動産が売りに出されることはよくありますが、その場合には以下の凹みがある場合があります。
凹み①不動産を共有することになった相続人が複数いて、相続人間の意思統一ができておらず、正式に売却となるのか不透明である
凹み②相続登記がされておらず、売買契約の売主が特定できない状態であるがゆえに、売買契約を締結できない
凹み③②の場合で遺言書がない場合は、法定相続人全員による遺産分割協議が必要であるが、相続人の一部に所在不明の者や未成年者がいて、直ちには遺産分割ができない
このような凹みがあると、なかなか不動産の売却が進まず、広く買主を募集することができませんので、基本的には物件価格は下がっていく方向に働きます。
凹み①相続人全員の意思が合致しない
遺産分割の場面でよく起こるトラブルとして、共有名義の土地を相続したことによって発生するものがあります。
土地がもともと共有の場合、共有者のうち1人が死亡すると、その共有持分が相続人に相続されます。すると、土地共有者がさらに増えてしまううえ、共有者どうしの面識もないことが多いため、土地の処分などが極めて難しくなりますし、固定資産税を誰が支払うかなどについてもトラブルになることがあります。
例えば、相続財産である実家を姉2分の1、弟2分の1で共有して相続したとします。その翌年、姉が病気で死亡し再度相続が発生し、姉の法定相続人は、配偶者と子供2人だったとします。姉にはめぼしい財産がほとんどなかったため、この2分の1の実家の持分を配偶者2分の1、長男4分の1、次男4分の1の割合で相続したとします。すると、実家という1つの不動産に対して権利を有する人物が弟(持分2分の1)、姉の配偶者(持分4分の1)、姉の長男(持分8分の1)、姉の次男(持分8分の1)の4人に増えてしまうのです。そうなると、土地・建物の売却や管理に関する意思決定をしていくことがきわめて困難になります。
そこで、このように、土地の権利関係が複雑になっている場合、事実上売却することが困難になります。不動産相続にあたって、とりあえず共有という相続方法をとれば、その場は比較的簡単に遺産分割協議を合意させることができますが、実はそれは遺産分割という問題を根本的に解決できているわけではなく、将来に先送りしているだけなのです。これが凹み①です。
凹み②相続登記がされていない
相続登記が未了の物件というのは、不動産取引においてはよくあることです。相続発生後、遺産分割協議に争いが生じたり、相続人の範囲が未だ確定できずに、相続登記を行わずに登記懈怠(けたい)となっているようなケースです。
相続登記未了の場合、戸籍謄本を取り寄せ、被相続人の相続人が誰であるのか相続人の範囲を確定する必要があります。そして相続人が誰であるのか確定したところで相続登記を行い、相続人から買主への所有権移転登記となります。通常は、被相続人→遺産分割で所有権を取得した相続人→買主という流れです。
例外として、他の相続財産があって全相続財産についての遺産分割はできないとしても、本件物件については売却するという合意が形成される場合、いったん、相続人全員で相続分通りの共有持分として相続登記をして、全相続人の合意のもと、被相続人→相続人全員→買主という流れで移転登記することもあります。
この点、原則の流れで相続登記をするためには、遺言書などがない限り、法定相続人全員により遺産分割協議を行い、全員の印鑑証明書付きの遺産分割協議書を法務局(登記所)に提出する必要があります。
相続登記が一代されていないだけで、相続人が複数いて遺産分割協議をすることが困難な場合もあるのですが、ときには代々相続登記がなされていないこともあります。相続登記未了で何代も前の所有者名義のまま放置されている場合は、法定相続人が多数に上る可能性があります。一般的に相続権が親から子、子から孫へと世代を重ねるごとに範囲が拡大し、子がない場合には兄弟姉妹にも権利の範囲が広がるため、法定相続人が多数になるのです。
そうなると、遺産分割協議ができないということで、売買契約を締結することができず、買主はあきらめるほかありません。これが凹み②です。