地主、借地人の「土地を利用する必要性」が最優先
(ⅱ)地主の更新拒絶
続いて、契約期間が満了するなどした場合に、借地人が契約を更新したいと希望した際に、更新できるのかという点です。賃貸借の期間満了にあたって、借地人から更新請求がなされた場合、あるいは借地人が土地の使用を継続する場合、地主としては、更新をさせないためには、遅滞なく異議を述べなければならず、その異議には正当の事由があると認められなければなりません(旧法4条1項、同6条、新法5条、6条)。ただし、旧法では、法定更新の場面で建物が存在しない場合には、地主が更新を拒絶するのに正当事由は不要です(旧法6条2項参照)。
また、法定更新の際に、旧法では建物の存在が要件となりませんが、新法では建物の存在が要件となっています(新法5条1項2項)。更新請求の場合は、旧法・新法ともに、建物の存在が要件となっています。これらの関係を図にしたのが図表1です。
<旧法>
第4条 借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限リ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス但シ土地所有者カ自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第6条 借地権者借地権ノ消滅後土地ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ前条第1項ノ規定ヲ準用ス
2 前項ノ場合ニ於テ建物アルトキハ土地所有ハ第4条第1項但書ニ規定スル事由アルニ非サレハ異議ヲ述フルコトヲ得ス
<新法>
第5条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして、借地権者と借地権設定者との間について前項の規定を適用する。
(借地契約の更新拒絶の要件)
第6条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
なお、旧法6条1項では法定更新が問題となるのは、「借地権消滅後」も借地権者が土地の使用を継続する場合として、期間満了による更新の場合に限定していません(新法では、5条2項で「借地権の存続期間が満了した後」として、法定更新となる場面を期間満了による場合に限定しています)。
これは、後述するように、旧法では建物が朽廃した場合は借地権が消滅してしまうのですが(旧法2条1項ただし書)、その場合にも法定更新があり得るとする必要があったからと言われています。この点、新法では建物朽廃による借地権消滅の制度がなくなったため、新法5条2項では法定更新の場面をもっぱら存続期間満了に限定したのです。ここからの帰結として、新法では、合意解除、借地権放棄、あるいは借地権者の債務不履行にともなう地主の解除の場合は、法定更新の適用はないことが明らかになりました。
次に、どのような場合に、更新拒絶(異議)に正当の事由があると認められるのかが問題となります。旧法では、「土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合その他の正当事由」と規定しています(借地法4条1項)。この条文からすると、地主が自ら土地を使用する必要性が重要であるようにも読めますが、そうではなく、「単に土地所有者側の事情ばかりでなく、借地権者側の事情をも参酌することを要し、たとえば、土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合においても、土地の使用を継続することにつき、借地権者側がもつ必要性をも参酌した上、土地所有者の更新拒絶の主張の正当性を判定しなければならない。」(最大判昭和37・6・6民集16巻7号1265頁)とされています。
そして、地主、借地人いずれの立場であっても、その土地を利用する必要性が最も重要であるとされ、住居、営業等の生計の維持に不可欠であるかどうか、土地の高度有効利用、立退料の提供の有無・金額、代替地の提供の有無、借地人の転居の不利益の程度、過去に信頼関係を破壊するような背信行為があったか否か等の事情を総合的に考慮して決められます。新法では、6条でそのことを明文化しました。