※本連載は、弁護士法人Martial Arts代表、弁護士・堀鉄平氏の著書、『弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント』(日本法令)から一部を抜粋し、ワケあり物件(凹みがある状態)を法的知識を駆使して安価で手に入れ売却する「オポチュニティ型」と呼ばれる投資手法を紹介していきます。今回は、不動産の売買において隣地との将来的なトラブルを避ける上でも重要な、土地の「境界」を確定する方法について見ていきます。

判決にて筆界を確定することを求める「境界確定訴訟」

土地を売却する前には、隣地との境界を確認しておいたほうがよいとされています。その理由として、境界が確定していないと、将来的に隣地とのトラブルが予想されるため、購入希望者(買主)の不安につながり、売却がスムーズにいかなくなるというリスクが考えられるからです。特に古くからある土地の場合、境界杭や境界標の存在がなく、境界が曖昧なケースもあることから、きちんと境界を定め、問題が起きないようにしておかないと、売却するにも買主が不安を抱きます。

 

かといって、境界確定には費用と時間がかかります。確定測量に関して言えば、100万円前後の費用と半年以上という期間が1つの目安になります。境界確定は、とくに官民査定に時間を要します。対象地と官有地の境界が定まっていない場合は、官有地を管理している管理者の担当部署に対し、官民境界確定協議申請を行うことになります。その手続きは管理者により異なり、管理者によっては境界確定協議が成立するまでに数か月を要する場合もあります。

 

こうした事情から、測量にかかる費用を売主が支払うことを条件に、売買契約や決済時には境界未確定のまま、買主のほうで最終的に境界を確定させる取引形態がとられることがあります。これは結構な凹みです。測量費だけ売主に負担してもらっても、後日、隣地所有者の方で立会いに応じてもらえない場合などに、各種法的手続をとる負担を買主が負うことになるのです。こうした凹みがあることもあり、普通の人は境界未確定の土地を積極的に購入することはできず、その反射的効果として売買価格は低くなることが通常です。この凹みが気にならない人にとっては安く購入する機会です。

 

◆必要な法的知識

 

①境界の種類

境界には2種類あります。1つは、隣地所有者との境界で、「民民の境界」と呼ばれます。もう1つは市道、県道などの公道との境界で、「官民の境界」と呼ばれています。境界が確定している状態とは、民民も官民も両方の境界が確定していることを指します。しかし、民民の境界は確定しているが、官民は確定していないというケースが多いです。

 

②境界の概念

境界は、法律上の境界と所有権の範囲を決める境界とで概念が異なります。

 

(ⅰ)法律上の境界(筆界)

法律上の境界とは、土地の登記簿に記載されている土地同士の境のことであり、筆界とも言われます。最初に地番がつけられたときや、土地を分けたとき(分筆)、複数の土地を一緒にしたとき(合筆)に決められ、個人が勝手に変更することはできません。

 

法務局にある、地図や公図(地図に準ずる図面)、地積測量図に表されている境界線はすべて「筆界」を指しています。土地の登記簿に記されている「地積」は、筆界により定まる面積のことです。筆界に関する紛争の解決は、境界確定(けいかいかくてい)の訴えによって行われてきました。加えて、近時、筆界特定制度が利用できるようになりました。

 

境界確定の訴えとは、隣接する土地の筆界の位置に争いがある場合に、判決により筆界を確定することを求めて訴訟を起こすことで、「境界確定訴訟」とも言います。この境界確定の訴えに関しては、法律上の境界と所有権の範囲を定める境界のいずれを対象にしているかの争いがありますが、通説・判例は法律上の境界を定めるものであるとしています。そして、この境界確定の訴えは通常の訴訟とは異なる性質のもので、理論的には、訴えを提起する側で境界線を具体的に主張する必要はなく、裁判所も当事者の主張に拘束されず、裁判に現れたあらゆる事情から判断して境界を判示します(棄却はありません)。

 

筆界特定制度とは、土地の所有者の申請に基づいて、筆界特定登記官が、民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。筆界特定とは、新たに筆界を決めることではなく、実地調査や測量を含むさまざまな調査を行ったうえで、過去に定められたもともとの筆界を筆界特定登記官が明らかにすることです。

 

この制度は、境界を巡る紛争を行政庁による迅速かつ合理的な筆界特定により解決するものですが、行政処分としての性質はなく、境界確定訴訟の判決が確定した段階で効力を失います。もっとも、境界確定訴訟においては、裁判所は筆界特定制度の記録の送付を嘱託できることから、筆界特定の結果は境界の位置に関する重要な証拠となります。

 

(ⅱ)所有権の範囲を決める境界(所有権界)

 

これに対し、所有権の範囲を決める境界(所有権界)とは、隣接している土地の所有者間で合意した境のことであり、「私法上の境界」とも言われます。それぞれの土地の所有者が合意すれば、自由に変更できます。

 

例えば、以下の図表1のように登記簿上の筆界では利用しにくい2つの土地A・Bがあった場合、土地の所有者同士で合意して、利用しやすいように、土地を売買あるいは交換すれば、所有権界が変わります。

 

[図表1]筆界と所有権界
[図表1]筆界と所有権界

 

紛争の解決は、所有権の範囲を確認する所有権確認訴訟によって解決されます。所有権界は、個人の権利義務の争いですから、裁判所によって解決されるべきものであり、所有権確認訴訟においては、処分権主義や弁論主義が適用され、和解により解決することもできます。

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

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掘 鉄平

日本法令

本書は、弁護士業務のかたわら、不動産投資家としても成功をおさめている著者が、その両方の視点から、不動産の投資・経営に有益な法律知識と、それを活かした資産拡大の方法について解説した、類を見ない1冊。法律に馴染みの…

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