※本連載は、弁護士法人Martial Arts代表、弁護士・堀鉄平氏の著書、『弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント』(日本法令)から一部を抜粋し、ワケあり物件(凹みがある状態)を法的知識を駆使して安価で手に入れ売却する「オポチュニティ型」と呼ばれる投資手法を紹介していきます。今回は、借地権者が地主から「底地」を購入する方法について見ていきます。

裁判所は双方の事情を考慮し「許可の可否」を判断

②何をするにも基本的に地主の承諾が必要で、その際に都度承諾料がかかるのが通常であること

 

新法では、借地人において、

(ⅰ)事情の変更に伴い、当初の借地条件と異なる建物を建築する場合

(ⅱ)増改築を制限する特約がある場合に、通常の利用上相当な増改築をする場合

(ⅲ)借地契約の更新後に建物を再築する場合

(ⅳ)借地上の建物を第三者に譲渡する場合

 

には、地主の承諾が必要です。

 

ところが、借地権者と地主とが疎遠であったり、不仲であったりする場合に、地主の承諾が得られないケースもあるでしょう。そのような場合に借地権者の増改築や譲渡を一切認めないこととすると、借地権者にとって極めて不都合であり、他方で地主にとってそれほど不都合がないケースもあり、これらに関する紛争を予防して、将来にわたり契約当事者の利害損失を調整すべき社会的要請があります。

 

そこで、新法は、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与える等の手続きを定めました(借地非訟手続)。借地人は裁判所に対し申立てを行い、裁判所は双方の事情などを考慮しながら許可の可否を判断します。また、許可を認める代わりに、地代の変更や財産上の給付(承諾料)支払を借地人に対して裁判所が命じるケースもあります。以下、具体的に見ていきます。

 

(ⅰ)借地条件変更の申立て

借地契約の中には、その土地に建設できる建物の用途や構造について制限を設けている場合があります。借地人が条件変更を地主に求め、合意すれば契約条件の変更が可能ですが、これを拒否された場合、借地人は裁判所へ借地条件変更の申立てを行うことができます。裁判所がこの申立てを相当と認めれば、借地条件変更の裁判が可能になります(新法17条1項)。

 

(ⅱ)増改築許可の申立て

借地契約には、借地に建てられた建造物の増改築を行う場合、地主からの承諾が必要なケースが多くあります。借地人が増改築を行いたいと地主に打診し、それが拒否された場合には、増改築許可申立を裁判所に対して行い、認められれば「土地所有者の承諾に代わる増改築の許可」の裁判が可能になります(新法17条2項)。

 

<新法>

(借地条件の変更及び増改築の許可)

第17条 建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。

 

2 増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。

 

3 裁判所は、前2項の裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。

 

4 裁判所は、前3項の裁判をするには、借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければならない。

 

5 転借地権が設定されている場合において、必要があるときは、裁判所は、転借地権者の申立てにより、転借地権とともに借地権につき第1項から第3項までの裁判をすることができる。

 

6 裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第1項から第3項まで又は前項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。

 

(ⅲ)借地契約の更新後の建物の再築の許可の申立て

借地契約の更新後に建物を再築するには地主の承諾が必要ですが、借地人がこの承諾を得ずに建物を再築すると、地主は借地契約を解除することができます(新法8条2項)。

 

したがって、借地権者は、借地契約の更新後に建物を再築する場合は、必ず地主の承諾もしくは承諾に代わる裁判所の許可を得なければなりません(新法18条)。

 

<新法>

(借地契約の更新後の建物の再築の許可)

第18条 契約の更新の後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは、借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができない旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、延長すべき借地権の期間として第7条第1項の規定による期間と異なる期間を定め、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。

 

2 裁判所は、前項の裁判をするには、建物の状況、建物の滅失があった場合には滅失に至った事情、借地に関する従前の経過、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

 

3 前条第5項及び第6項の規定は、第1項の裁判をする場合に準用する。

 

(ⅳ)土地賃借権譲渡または転貸許可の申立て

借地人が借地に建てられた建物を第三者へ譲渡(売却)する場合には、地主の承諾が必要であると民法612条1項には定められています。しかし、この承諾が得られない場合には、裁判所が相当と認めた後に「土地所有者の承諾に代わる許可の裁判」を受けることができるようになります(新法19条1項)。ただし、地主には介入権が与えられるため、上記にかかわらず裁判所が決めた価格で上記借地上建物(借地権)を第三者より優先的に買い取ることが可能です(同条3項)。

 

<新法>

(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)

第19条 借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

 

2 裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

 

3 第1項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

 

4 前項の申立ては、第1項の申立てが取り下げられたとき、又は不適法として却下されたときは、その効力を失う。

 

5 第3項の裁判があった後は、第1項又は第3項の申立ては、当事者合意がある場合でなければ取り下げることができない。

 

6 裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項又は第三項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。

 

7 前各項の規定は、転借地権が設定されている場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第3項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

 

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

掘 鉄平

日本法令

本書は、弁護士業務のかたわら、不動産投資家としても成功をおさめている著者が、その両方の視点から、不動産の投資・経営に有益な法律知識と、それを活かした資産拡大の方法について解説した、類を見ない1冊。法律に馴染みの…

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