前回は、人材育成に役立つ「ID」が日本で浸透しにくいことを解説しました。今回は、多くの企業で見られる、「研修ありき」の人材教育の問題点を取り上げます。

その研修実施が「最適」といえる根拠はあるか?

本書籍『魔法の人材教育』の第1章では、「自ら学び、自ら考え、自ら行動する」人材を育成するきっかけになるような人材教育をデザインしていかなければならないとお話をしましたが、一度立ち止まって考えていただきたいことがあります。

 

社員のパフォーマンスにおける課題の解決策として、本当に研修が最適なのか?ということです。皆さんにぜひ覚えておいていただきたいことは、研修は企業内のすべての課題を解決できるスペシャルな手段ではないということです。

 

ここで1つ考えていただきたい問題があります。

 

先日、人材教育担当者の方が、「若手の営業が育っていないので、3年次の社員に対して何か研修を企画しようと思うのですが」と私のもとへご相談にいらっしゃいました。

 

考えていただきたいのは、「3年次の社員に研修を実施するだけで本当に業績につながるのか」ということです。もちろん、研修がマイナスになることはないでしょう。

 

しかし、私は、この人材教育担当者の方が、3年次の社員に対して単発の研修をすることだけが最適な解決策であると思い込んでしまっていることに、不安を覚えました。さまざまな原因を分析し、さまざまな解決策を検討した上で、研修が最適である場合に、研修の実施を選択することが大切です。

必要なのは「問題を深堀り」する習慣

思い込みを捨てて、立ち止まって考えてみると、「若手の営業が育っていない」理由は、3年次社員の知識、スキル不足の他にもあるかもしれないということに気づくのではないでしょうか。もっと根本的な問題があるならば、そこから優先的に取り組む方が成果に結びつけやすいかもしれません。会社としての資源は有限ですから、優先度が高い問題から解決に向けて着手していくことが鉄則です。

 

「若手の営業が育っていない」という問題の解決策は、若手自身への研修だけではなく、マネジャーへのコーチング研修かもしれませんし、マネジャーより上位の方向けの研修が必要なのかもしれないのです。

 

さらにいえば、研修ですらなく、例えば、業務スペースの環境を整えること、業務支援ツールの開発、若手への期待や役割を明確に伝えることや、採用基準の改善かもしれません。

 

必要なのは、研修ありきで考えずに、問題を深掘りする習慣です。検討しているだけでは何も進んでいないように感じ、やきもきすることもあるかもしれません。しかし、しっかりと問題を掘り下げて、問題の全体像を捉えることは、遠回りのように見えて実は近道。ずっと成果が出やすくなるのです。

魔法の人材教育

魔法の人材教育

森田 晃子

幻冬舎メディアコンサルティング

社員が思うように育たない――そう嘆く人材教育担当者の声をしばしば耳にします。たとえば、多くの企業では階層別研修などの「企業内研修」を実施していますが、これらの研修は厳密な効果測定が難しいうえに、受講者からは「知…

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