前回は、魅力ある人材を効率的に育成する教育理論「ID」の概要を紹介しました。今回は、人材育成に役立つ「ID」が日本で浸透しにくい理由を見ていきます。

日本の場合、IDを修士レベルで学べるのは熊本大学だけ

日本ではまだまだIDは浸透していません。

 

その理由の1つとして、欧米は言語・価値観・バックグラウンドが異なる人種が集まっているため、言葉として発信し、見える化していかなければならなかったという背景があります。そのため、リーダーシップ、マネジメントやダイバーシティなども欧米の方が進んでいるのですね。

 

また学びの場所としても、IDを修士レベルで学ぶことができるのは日本では熊本大学だけであるのに対し、米国にはIDを学べる機関がたくさんあります。IDは、もとは米軍の軍人を育成するために確立したフレームのため、米国では多くの大学院で学ぶことができ、また、その卒業生が企業や学校に広がることでより浸透しているのです。

 

外資系企業は、本国にIDerがおり、eラーニングや研修プログラムはIDに沿って作られているというケースが多いです。日本は国土面積が狭く、交通網が発達しているということが影響しているのでしょうか。人を集められるなら集めようという考え方が軸にある企業はまだまだ多いようです。外的な環境から欧米ではより効果・効率が求められ、eラーニングやテレビ会議が必要不可欠なため、当たり前のように浸透し、IDがインストールされたプログラムが展開されています。

 

日本のパイロット教育でも、ようやく正式にIDが取り入れられ始めました。今やっと世界基準に手がかかる状態になったといえます。

「ID」を構成するプロセスモデルとは?

IDは、最も基本的なADDIE(アディー)というプロセスモデルからなっています(下記図表1、2参照)。ADDIEとは、分析(Analysis)・設計(Design)・開発(Development)・実施(Implementation)・評価(Evaluation)の頭文字をとったものです。このサイクルを回しながら、教育をやりっぱなしにするのではなく、評価をして、改善をして、より良い成果を出していくということを求めるモデルです。

 

教育がうまくいっているかどうかを確かめるには、先に目標を明確にしておいて、適宜評価をして、必要に応じて改善をしていくことがベストです。読者の方にとっては、「PDCAサイクルを回す」という表現の方がわかりやすいかもしれませんね。ADDIEはPDCAをIDに当てはめたものです。

 

[図表1]ADDIEの実施内容

 

[図表2]ADDIEのモデルサイクル

 

ビジネスの世界では当たり前のPDCAサイクルですが、教育の世界ではうまく回っていないことの方が多く、特に、分析、設計、評価のフェーズが欠けているといわれています。ADDIEを高速で回転させることで、より効果的・効率的で魅力的な人材教育にレベルアップしていくことが可能になります。

 

また、ADDIEモデルは大きく1周ずつしか回らないというイメージがあるかもしれませんが、下記図表3のように素早く小さくクルクル回していくことをお勧めします。「人材教育」においてADDIEを回すとなると1回転するまでに1年以上かかってしまいますが、「1つの研修の1つのコンテンツ作成」「小規模でパイロットを実施する」「eラーニングであれば1モジュールのモックアップを作る」などの小さい単位においてADDIEを回せば1日で1回転することができます。このような小さなADDIEサイクルを、私は「Rapid ADDIE」と呼んでいます。

 

[図表3]大きなADDIEと小さなADDIE

 

真面目で慎重な人ほど、企画を自分の中で100点になるまで作り込み、提出した後に実は方向性が違い、多分な修正を求められるということが多いように思います。手戻りが多いと、それだけで業務が滞ります。30点でも良いから早めに提出し、方向性をすり合わせながら修正していくことの方がずっと時間もかかりませんし、本人の成長も早い。つまり、ADDIEをじっくり回すというよりも、高速で何回転もさせていき、大きなADDIEを状況に合わせて改善していくという意識の方が重要なのです。

 

 

これまで、PDCAサイクルを回すことやADDIEモデルの考え方になじみがなかったという方は、これをきっかけにぜひマスターしてください。

魔法の人材教育

魔法の人材教育

森田 晃子

幻冬舎メディアコンサルティング

社員が思うように育たない――そう嘆く人材教育担当者の声をしばしば耳にします。たとえば、多くの企業では階層別研修などの「企業内研修」を実施していますが、これらの研修は厳密な効果測定が難しいうえに、受講者からは「知…

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