「もったいない」の裏にあった、年金11万円の苦しい資金繰り
帰省から戻った翌週、健太さんからFPである筆者のもとに電話がありました。2年前に娘さんの大学進学資金について相談を受けて以来、年に一度は面談を続けている方です。
「母の様子がおかしい気がするんです。でも、なにがおかしいのか自分でも言葉にできなくて」
一連の経緯を聞いた筆者は、まずは健太さんが知り得る情報をもとに、和子さんの金銭状況を整理することにしました。
和子さんの収入は、老齢基礎年金が月6万2,000円ほど。若いころに保険料を納められない時期があったため、満額には届きません。これに、亡くなったご主人の遺族厚生年金が月4万8,000円ほど加わって、手取りは月およそ11万円。年間にすると132万円です。
「そんなに少なかったんですね……。父が定年まで勤めていたし、もっとあると思っていました」
一方、和子さんの支出は、月々約8万7,000円。年金収入の範囲にきっちり生活を押し込め、削れるところを削り続けていたわけです。その削りしろの一つが、湯船でした。
「たしかに、『追い焚きをすると、冬はガス代が跳ね上がるのよ』とよく言っていました」
実際、1年分の家計を整理すると、光熱費のかさむ1月と2月だけは赤字に傾いています。母がいった「もったいない」は、気持ちの問題ではなく支出を抑えるための節約術だったのです。
また、筆者には、和子さんが湯船に入らない理由として、もう一つ気になる点がありました。
「健太さん、お母さまはいつから湯船に入っていないのでしょうか。それと、この冬、浴室で転んだり、ヒヤリとしたりしたことはありませんでしたか」
すぐに健太さんが電話で尋ねると、和子さんはしばらく黙ったあと、こう言ったそうです。
「1月にね、洗い場で足がすべって、尻もちついたんよ。それから、またぐのが怖うなって……。あんたに言うと大ごとになるけん、黙っとった」

