田舎暮らしは「のんびり」どころじゃなかった…地方移住5年で限界を感じた68歳夫婦が、「東京の賃貸」に戻って手に入れた平穏【FPが解説】

田舎暮らしは「のんびり」どころじゃなかった…地方移住5年で限界を感じた68歳夫婦が、「東京の賃貸」に戻って手に入れた平穏【FPが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

満員電車や都市の喧騒から解放され、「自然豊かな環境で畑を耕しながら、のんびり第二の人生を送りたい」――そうしたセカンドライフへの憧れから、定年後の地方移住を決意する人は少なくありません。しかし、思い描く「のんびりした暮らし」の裏には、予期せぬ現実が待ち受けていることも……。Aさん夫婦の事例とともに、定年後の地方移住の落とし穴について、波多FP事務所の波多勇気氏が解説します。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。

1,600万円で始めた田舎暮らし

「もう、東京に戻ろうと思っています」

 

そう話したのは、筆者がFPとして相談を受けていた現在68歳のAさんです。Aさんは3歳年下の妻と2人暮らし。会社員として長く東京で働き、63歳で完全リタイアしました。

 

夫婦が選んだ第二の人生は、地方への移住でした。

 

「仕事を辞めたら東京に住み続ける必要もないし、家賃を払い続けるのももったいないと思ったんです。田舎なら安く家も買えるでしょう?」

 

購入したのは、東京から車で3時間ほど離れた地方都市の郊外にある築50年ほどの古民家です。物件価格は約680万円。水回りや断熱、屋根などのリフォームに約920万円をかけ、総額約1,600万円で住まいを整えました。現役時代に貯めた金融資産は約4,500万円。夫婦の年金収入は手取りで月24万円ほどあります。住宅ローンも家賃もありません。

 

「月18万円くらいあればのんびり暮らせると思っていました。畑で野菜も作れば、食費だって安くなると思っていたんです」

 

数字だけを見れば、確かに無理のない計画に見えます。ところが、生活を始めると想定外の出費が少しずつ積み重なっていきました。

「家賃ゼロ」なのに、膨らむ負担

まず必要になったのが車でした。スーパーまでは車で約15分。病院までは30分ほど。最寄り駅も徒歩で行ける距離ではありません。夫婦で軽自動車を1台購入しましたが、ガソリン代、自動車保険、税金、車検、タイヤ交換などを合計すると、年間で40万円以上かかります。

 

さらに古民家にも費用がかかりました。

 

「リフォームしたんだから、しばらくお金はかからないと思っていたんですよ」

 

ところが、雨どいの修理、庭木の剪定、害虫対策、給湯器の不具合など、細かな支出が毎年のように発生します。冬になると暖房費も想定以上でした。

 

ある年は、家と車の維持だけで年間80万円近い臨時支出が発生しました。家庭菜園も、必ずしも「タダで野菜が手に入る趣味」ではありません。苗や肥料、農具、防虫ネットなどを買えば、それなりにお金はかかります。

 

そしてなにより夫婦を疲れさせたのが、「お金ではない負担」でした。草刈り、落ち葉掃除、雪への備え。地域の清掃や行事。近所との付き合い……。

 

「会社を辞めたら時間から解放されると思っていたのに、こっちでは別の予定が次々入るんです」

 

妻もこう話します。

 

「最初の2年くらいは楽しかったですよ。でも、毎年同じことをやらないといけない。家って、こんなに手がかかるんだと思いました」

 

全国には空き家が増えており、総務省の2023年住宅・土地統計調査では空き家数は900万戸、空き家率は13.8%と過去最高になっています。しかし「安く買えること」と「安く暮らせること」は、まったく別の問題です。

次ページ地方移住5年で感じた限界

※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。

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