(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢親の一人暮らしを危うく思ったとき、選択肢にあがる高齢者施設への入居。昨今では種類も多様化し、高級志向の老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、需要に合わせた施設が増えています。しかし、その人の需要に合った施設を見極めるのは簡単ではないようです。本記事では、波多FP事務所の波多勇気氏が、文枝さん(仮名)の事例から、サ高住入居にあたって見落としがちなポイントと老後の住まいを選ぶ際の注意点について解説します。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。

息子が母を「サ高住」に入居させることを決めたワケ

「親孝行のつもりだったんです。まさか、あんなことになるとは」

 

そう肩を落とすのは、都内の機械メーカーに勤める田村隆志さん(仮名/56歳)です。筆者が地元の信用金庫で講師を務めた「実家と親のお金」セミナーのあと、名刺を頼りに事務所を訪ねてこられました。

 

田村さんが相談したかったのは、母・文枝さん(仮名/84歳)のことです。文枝さんは3年前に夫を亡くして以来、隆志さんの住まいから車で2時間ほど離れた地方都市に一人で暮らしています。年金は自身の老齢基礎年金と遺族厚生年金を合わせて月13万円ほどで、貯蓄は約1,100万円。お金の面では、地方の持ち家暮らしなら大きな不安のない水準でした。

 

平穏な暮らしに変化があったのは、2025年の夏のことです。帰省した隆志さんは、庭先でふらついて尻もちをつく母の姿を目にしました。幸いケガはなかったものの、「次に転んだとき、誰が気づいてくれるんだろう」と不安が頭をよぎります。

 

「母さん、もう一人にしておけないよ。安心して暮らせるところに移ろう」

 

文枝さんは「まだ大丈夫」と渋りましたが、最終的には心配する息子の顔を立てる形で、同じ市内にできたばかりの「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」に入居することになりました。

 

月々かかる費用は、下記のとおりです。

 

・家賃:6万6,000円

・共益費:1万6,000円

・安否確認などのサービス費:2万4,000円

・食費:約4万円

・光熱費:約1万5000円

 

合計……月約16万円

 

年金13万円では毎月3万円前後を母の貯蓄から取り崩す計算ですが、隆志さんは「安心はお金には代えられない」と考えました。入居は2025年10月。バリアフリーの真新しい居室に、隆志さんは胸をなでおろしたといいます。

入居5ヵ月で実家に出戻ってしまった母

異変が起きたのは、入居から5ヵ月が経った2026年3月のことです。夜10時過ぎ、隆志さんの携帯に母から電話がありました。

 

「もうここにはいられない。家に帰らせてもらいます」

 

翌週末、あわてて駆けつけた隆志さんが見たのは、サ高住を引き払い、実家の居間でモジモジと座る母の姿でした。

 

「食事がまずかったのか、ご近所さんと揉めたのか。理由を聞くまで、私はそのどちらかだと思い込んでいました」

 

ところが、文枝さんの口から出たのは、まったく想定外の言葉でした。

 

「あの家ではね、私は毎朝、生きているか確認されるだけなの。ボタンを押して、はい今日も生きていますねって。それ以外やることもないし、誰とも一言も話さないのよ。うちにいれば、誰とも話さなくたって、庭の手入れや漬物づくり、やることがたくさんあるでしょう。花壇の当番や回覧板もない、私を待っている用事が一つもない家で、あと何年暮らせっていうの」

 

入居したサ高住は設備も職員の対応も申し分ないものの、母はそんなすべてが整った暮らしのなかで、自分の役割を失っていたのです。

 

次ページ施設入居がかえって家計と心を苦しめるケースも

※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。

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