「シャワーで十分」…半年ぶりの実家で気づいた“母の異変”
千葉県に住む会社員・佐々木健太さん(53歳)は、今年の夏季休暇に、愛媛県の実家に帰省しました。妻の由紀さん(仮名/50歳)と高校2年生の娘を連れ、羽田空港から飛行機と車を乗り継いで、半日がかりの道のりです。
実家には、母の和子さん(仮名/82歳)が一人で暮らしています。10年前に父を亡くしてからは、ずっと一人。健太さんは月に2回ほど電話をかけていましたが、和子さんの声はいつも張りがあって、「こっちは元気よ、心配せんでええ」が口ぐせでした。
「だから、正直なところ油断していたんです。年に数回しか帰らないくせに、電話で元気そうだから大丈夫だと思っていた」
しかし今回、半年ぶりに実家に到着した瞬間、健太さんは小さな違和感を覚えました。庭の草が膝の高さまで伸びているのです。玄関の隅には封を切っていない郵便物が積まれ、仏壇の花は枯れかけています。
それでも和子さんは明るく孫を出迎え、即座に冷えた麦茶を出してくれました。健太さんは「歳をとれば、そんなものか」と、このときは自分に言い聞かせました。
しかしその夜、もっと変なことが。家族を順番に風呂に入らせようと浴室のドアを開けても、湿った臭いがまったくしないのです。浴槽はカラカラに乾き、排水の栓は上がったまま。ふたの上には洗濯ばさみの籠が置きっぱなしで、しばらく前からここを開けていないことが一目でわかりました。浴槽をこするスポンジも、洗い場の隅で干からびたままです。脱衣所の棚の上には、正月に健太さんが土産に持たせた入浴剤の箱が、封も切られずに埃をかぶっていました。
一方で、シャワーヘッドのまわりだけは水垢がついており、母は湯船を避け、シャワーだけを浴びていることがわかりました。
「お母さん、湯船浸かってないの?」
台所に戻って聞くと、和子さんは笑って言いました。
「暑いけん、シャワーで十分よ。お湯を沸かすのももったいないしね」
その笑顔が、健太さんにはどうしても引っかかりました。

