台風や集中豪雨によって物件が被災した際、アパートオーナーの懸念は「責任の範囲」だけに留まりません。特に昨今は、建設部材の不足や工期の遅延が常態化しており、「直したくてもすぐに直せない」という問題に直面します。修繕が長引くなか、入居者から「家賃を下げてほしい」と要求された場合、法的にどう対応すべきなのか。本記事では、賃貸借実務に精通した山村暢彦弁護士が、民法改正を踏まえた適正な減額割合の算定と、円満な合意形成のステップを解説します。
被災を理由に「早期退去」の申し出…違約金条項の有効性と原状回復のポイント
修繕に時間がかかると、「これ以上住み続けられないので退去したい」と入居者から申し出を受けることもあるでしょう。このような場合、「契約期間中の退去には違約金が発生する」とする特約があっても、当然に違約金を請求できるとは限りません。
たとえば、雨漏りによって居室の一部が使用できない、給排水設備が長期間利用できないなど、建物が本来予定されていた居住機能を大きく失っている場合には、入居者が契約を解除できる可能性があります。このようなケースでは、違約金条項の適用が認められないことも考えられます。
一方で、生活への影響が限定的であり、オーナーも速やかに修繕手配を進めているような場合には、直ちに契約解除が認められるとは限りません。被害の程度や修繕の見込み、オーナーの対応状況などを踏まえ、個別に判断されることになります。
また、退去時には原状回復費用を巡るトラブルにも注意が必要です。被災による汚損や損傷についてまで入居者に負担を求めることは適切ではありません。退去時には、災害による被害と入居者の使用による損耗を区別し、室内の状況を写真などで記録したうえで精算を進めることが、不要な紛争を防ぐポイントとなります。
紛争を未然に防ぐ「遅延理由説明書」による合意形成の手順
台風などの自然災害による修繕では、「直したくても直せない」という状況が生じることがあります。近年も、中東情勢の影響によるナフサ不足などを背景に、建築資材の供給が滞り、修繕工事の着手や完了が遅れるケースがみられました。法律は、このような事情があるにもかかわらず、不可能な修繕をオーナーに求めるものではありません。
もっとも、重要なのは「修繕できなかった」という結果ではなく、「修繕に向けてなにを行っていたか」です。施工業者への依頼日、見積りの取得状況、部材の納期、入居者への説明内容などを「遅延理由説明書」として記録・共有しておけば、オーナーが適切に対応していたことを客観的に示すことができます。
災害時の賃貸経営では、法的責任の有無だけでなく、入居者との信頼関係を維持することも重要です。できないことを約束するのではなく、できることを着実に実行し、その経過を丁寧に説明することが、結果として紛争の予防につながるでしょう。
山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士
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弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数7名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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