「しばらく実家に置いてほしい」娘の帰還で一変した夫婦の生活
72歳の昭夫さん(仮名)は、70歳の妻・和枝さん(仮名)と、郊外の一戸建てで暮らしていました。
夫婦の年金収入は合わせて月22万円。住宅ローンはすでに完済しており、貯蓄を少しずつ取り崩しながら、穏やかな毎日を送っていたそうです。
「朝は2人で散歩して、昼間はそれぞれ好きなことをして。夕食を食べたらテレビを見ながらのんびりする。そんな生活でした」
子どもたちが独立してからは、食事の時間も自由になりました。和枝さんは趣味の手芸教室に通い、昭夫さんは近所の友人と将棋を楽しむこともあります。
そんな夫婦のもとに、ある日、42歳の娘・奈緒さん(仮名)から電話がかかってきました。
「お父さん、お母さん。しばらく実家に住ませてもらえないかな」
奈緒さんは夫との離婚が決まり、小学5年生の長女と小学2年生の長男を連れて家を出ることになったといいます。
奈緒さんはパート勤務をしていましたが、すぐに子ども2人と暮らせる賃貸住宅を借りるのは難しく、仕事や住まいが落ち着くまで実家に戻りたいとのことでした。
昭夫さん夫婦は、娘の事情を聞いて受け入れることにしました。
「困っているときに頼れる場所があってよかったと思ってほしかったんです。孫たちと一緒に暮らせるのも、最初は楽しみでした」
幸い、自宅には子どもたちが使っていた部屋が残っています。夫婦は荷物を片づけ、娘と孫たちを迎える準備を進めました。
引っ越してきた初日、孫たちは「おじいちゃん、今日からよろしくね」と元気に挨拶。久しぶりに5人で囲んだ夕食は、にぎやかだったそうです。
しかし、同居が始まって数週間もすると、生活は想像以上に慌ただしくなりました。
朝は孫たちの登校準備で洗面所が混み合い、夕方には宿題や翌日の持ち物の確認。奈緒さんが仕事から帰るまで、和枝さんが夕食を用意することも増えました。
「夫婦2人なら簡単なもので済ませられたんです。でも、育ち盛りの子どもがいると、そういうわけにもいきません。毎日、何を作ろうか考えるようになりました」
昭夫さんも、孫の習い事の送迎や買い物を頼まれるようになりました。孫たちとの時間は楽しいものの、夫婦だけで過ごしていた頃の自由な時間は、少しずつ減っていったのです。
