差し出された「これ、よろしくね」という紙
直子さんが心配して「少しずつ整理しようよ。転んだら危ないし、ね。もしお母さんに何かあったら大変だから」と説得しようとすると、和江さんは突然不機嫌になり、1枚のメモ用紙を持ってきました。
そこには、手書きでこう書かれていました。
『固定資産税の振込用紙、庭の草むしり(7月)、屋根の修理見積もり(120万円)、粗大ゴミの処理』
「お母さん、膝が痛くて、庭の手入れも粗大ゴミを出すのも無理なの。業者に見てもらったら、屋根のリフォームに120万円かかるって言われたけど、そんなお金ないし。あなたが休みの日に来て、やってくれるの? お金も少し出してくれると助かるんだけど……」
そのメモと「120万円」という数字を見た瞬間、直子さんは頭が真っ白になりました。
直子さん自身の家計も決して楽ではありません。子どもの塾代や高校受験の準備費、自分たちの住宅ローンで毎月ギリギリのやりくりをしています。休日は家族の用事や溜まった家事で潰れ、片道2時間かかる実家に毎週通って、肉体労働をする体力も時間もありません。
「お母さん、うちだって余裕はないよ。屋根の120万円なんて払えないし、毎週来て片付けるなんて無理」
直子さんがそう言うと、和江さんは涙ぐみながら声を荒げました。
「冷たいね。お父さんと苦労してあんたを育ててさ、家を残したのにさ、見捨てる気なんだね」
