歓迎していた帰省が、母の重荷になるまで
「来週から5日間、そっちに泊まるから」
長男の健太さん(仮名・40歳)から連絡を受けたとき、和美さん(仮名・68歳)は思わず聞き返しました。
「5日間も? 仕事はどうするの?」
「在宅でできるし、子どもたちも夏休みだから。食事だけお願いね」
健太さんは妻と小学生の子ども2人との4人暮らし。会社員として働き、月収は額面で約52万円あります。
和美さんは夫を5年前に亡くし、現在は一人暮らしです。年金は月約13万円、預貯金は約900万円。住宅ローンを完済した戸建てに住んでいますが、固定資産税や自宅の修繕費、将来の医療・介護費を考えると、余裕のある家計ではありません。
それでも、長男一家が帰省するたび、和美さんは肉や魚、孫の菓子や飲み物を買いそろえていました。外食代やレジャー施設の入場料も、「せっかく来たのだから」と支払うことが多かったといいます。
帰省は年に2回ほどでしたが、近年は滞在期間が長くなっていました。健太さん夫婦が友人と会う間、孫を一日預かることもあります。
「孫に会えるのはうれしかったんです。でも、帰った後は疲れて何日も動けませんでした」
ある年の夏、長男一家の滞在に備え、和美さんは食料品だけで約3万円を使いました。到着すると、健太さんは「今回は仕事が忙しいから」と自室に入り、妻も買い物や旧友との食事に出かけます。食事の準備、洗濯、孫の相手は和美さんが担いました。
滞在3日目、健太さんからさらに頼み事をされます。
「車検と修理が重なったんだ。20万円だけ貸してくれない?」
「毎月、きちんと給料をもらっているでしょう」
「住宅ローンも教育費もあるんだよ。母さんは家賃もかからないし、少しくらい大丈夫だろう」
和美さんは、その言葉を聞いて初めて、息子が自分の暮らしをどう見ているのかを知りました。
総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円である一方、消費支出は14万8,445円。平均では毎月の支出が手取り収入を上回っており、年金月13万円で暮らす和美さんも、臨時支出は預貯金から補う必要があります。
「年金生活だからこそ、貯金を減らさないように暮らしているのに。息子には、お金を使う機会がないと思われていたようです」
