「ハラスメント放置・熱中症対策不備」でSNS炎上…経営層が見落としがちな〈内部通報ゼロ〉のワナ【社労士が解説】

「ハラスメント放置・熱中症対策不備」でSNS炎上…経営層が見落としがちな〈内部通報ゼロ〉のワナ【社労士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

労務問題の見えないリスクを根本から除去するためには、測定(M)で可視化し、統制(C)で構造を変え、報告(R)で経営判断につなげ、改善(I)で回す「MCRIサイクル」が重要です。金山杏佑子氏の著書『対話でわかる「経営労務」』(中央経済社)より、このなかから今回は、後半のステップである「報告(Report)」と「改善(Improve)」について解説します。

〈登場人物〉

加藤社長:10年前に創業者の父から事業を承継した代表取締役。取引先の要請に応じた事業拡大により、組織運営に課題が生じている。組織的歪みに危機感を覚える一方で、ここを乗り越えれば会社が変わるという思いがある。経営労務に主体的に取り組みたいと考えている

 

林労務責任者:現場の実情に詳しく、労務の重要性を誰よりも理解している。しかし、それを経営層にわかりやすく伝えられず、さらに経営と労務の距離が開く悪循環に悩んでいる。現場出身で実務には精通しているが、経営視点で労務を扱える機会はこれまで少なかった

 

田中監査役:経営と現場の橋渡し役。加藤と林の対話が噛み合わない時に理解を促進する

 

山下顧問:豊富な経営経験を活かし、外部の視点から同社が社会の変化に対応できるよう助言する。MCRIサイクルによる体系的アプローチを導く

 

【EXECUTIVE SUMMARY】

報告(R)と改善(I)は表裏一体だ。

 

ヨルベロジスティクス社はSNS炎上で学んだ。「通報ゼロ=リスクゼロ」という誤解。内部通報制度を整備し、統一的な報告基準を設け、M&A先にも展開した。

 

しかし、測定の先には「可視化の谷」がある。不都合な真実が見える。過労死ラインへの抵触懸念5名、未払賃金1,200万円。「知らなければよかった」という誘惑。ここで目を背けずに、構造的原因を分析し、改善する―これが経営者の責任だ。

 

1年後、過労死ラインはゼロ、内部通報制度も実効化、従業員満足度は42%から78%へ。MCRIサイクルを回し続けることで、労務管理は「事後対応型」から「予防型」へ進化する。対話を通じて、制度は文化として根付き、組織は変わる。

労務改善もSNS炎上が避けられなかった理由

ヨルベロジスティクス社 経営会議

 

加藤社長:まず、経営会議で決めた統制の効果を報告してください。

 

林労務責任者:はい。3つの観点で報告します。

 

【安全配慮義務の観点から】過労死ラインに近かったA地域の5名について、B地域からの短期応援により労働時間が削減され、現在は全員が月60時間以内に収まっています。

 

【簿外債務の観点から】未払賃金1,200万円のリスクについて、配送スケジュールの見直しと残業代計算式の修正により、新規発生はほぼゼロになりました。過去3年分の精算も計画どおり進んでいます。

 

【雇用制約の観点から】B地域から3名がA地域への短期応援に参加し、「スキルアップの機会」として好評です。

 

加藤社長:良い成果ですね。測定(M)→統制(C)のサイクルが機能している。…ただし、昨日X(旧Twitter)で当社に関する投稿が炎上している件、皆さんもご覧になったと思います。「ヨルベロジスティクスでハラスメント放置・熱中症対策不備」という内容です。すでに1万リポストを超え、ニュースサイトでも取り上げられました。事実関係はいかがでしょうか?

 

林労務責任者:申し訳ございません。実は3週間前に、M&A先の運送会社でパワハラの相談が2件ありました。上司が部下に「使えない」と繰り返し発言していたというものです。また、夏場の配送中に水分補給の時間が取れず、休憩場所にも冷房設備がないという指摘もありました。ただ、緊急性が低いと判断してしまい…

 

加藤社長:3週間前? なぜ報告が上がってこなかったのですか? 私は昨日SNSで初めて知りました。

 

林労務責任者:統一的な報告基準がなく、各拠点が独自の基準で判断していました。また、M&A先の拠点では、当社の内部通報制度も周知されていませんでした。

 

山下顧問:内部通報制度の運用状況はどうでしたか?

 

林労務責任者:これまで内部通報はゼロでした。そのため、リスクはないと考えていました。

 

次ページ「通報ゼロ=リスクゼロ」の誤解

※本連載は、金山 杏佑子氏の著書『対話でわかる「経営労務」』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

対話でわかる「経営労務」

対話でわかる「経営労務」

金山 杏佑子

中央経済社

労務論点に「どこから着手する」がわかる。複雑な労務をM(測定)C(統制)R(報告)I(改善)のステップで整理し、制度設計、リスク許容の程度等の判断ポイントを示す。 本書『対話でわかる「経営労務」』では、労務論点に…

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