〈登場人物〉
加藤社長:10年前に創業者の父から事業を承継した代表取締役。取引先の要請に応じた事業拡大により、組織運営に課題が生じている。組織的歪みに危機感を覚える一方で、ここを乗り越えれば会社が変わるという思いがある。経営労務に主体的に取り組みたいと考えている
林労務責任者:現場の実情に詳しく、労務の重要性を誰よりも理解している。しかし、それを経営層にわかりやすく伝えられず、さらに経営と労務の距離が開く悪循環に悩んでいる。現場出身で実務には精通しているが、経営視点で労務を扱える機会はこれまで少なかった
田中監査役:経営と現場の橋渡し役。加藤と林の対話が噛み合わない時に理解を促進する
山下顧問:豊富な経営経験を活かし、外部の視点から同社が社会の変化に対応できるよう助言する。MCRIサイクルによる体系的アプローチを導く
【EXECUTIVE SUMMARY】
どうすれば労務を経営の一部にできるのか。鍵は、労務リスクの性質を理解することだ。労務問題の大半はカビのようなものであり、根は経営者からは見えにくく、組織の構造として恒常化しやすい。ここでは、数十億円の助成金不正事例から、見えないリスクこそ最もおそろしいことを確認する。MCRIサイクルは、このカビを根から除去する仕組みだ。測定(M)で可視化し、統制(C)で構造を変え、報告(R)で経営判断につなげ、改善(I)で回す。ヨルベロジスティクス社は、まず報告から始めた。
労務問題の大半はじわじわ広がるカビのようなもの
ヨルベロジスティクス社 経営会議
加藤社長:労務リスクの整理状況はいかがでしょうか?
林労務責任者:指示のとおり調査を進めました。働き方改革関連法の影響について、いくつか気になる点があります。ドライバーの休憩時間の不足、深夜勤務者に対する健康診断の不足、管理職の勤怠管理の理解不足などです。
加藤社長:個別の問題はわかりましたが、全体として何が一番重要なのですか? 詳しく調べれば調べるほど問題が見つかりそうですが、下手に掘り下げて課題がたくさん見つかったら何から手をつけていいかわからなくなりそうです。
林労務責任者:社長のお気持ちはわかります。社長のご指摘で、労務は経営レベルで考えるべきテーマだと気づかされました。これまでは、現場で解決して、経営層に余計な心配をかけないことが自分の役割だと思っていました。でも、今回挙げた問題をどう優先順位をつけて報告すべきか、正直悩んでいます。
田中監査役:それぞれの言い分はよく理解できます。社長は「何を優先すべきか」を知りたい。林さんは「現場の課題を経営に正しく伝えたい」と思っている。この両方を満たすために、少し整理してみましょうか。
実は、労務リスクの多くはカビのような性質を持っています。個人の悪意ではなく、組織の構造として、じわじわと広がっていく問題です。壁の表面は綺麗に見えても、実は裏側ですでに広がっていることが多いのです。
加藤社長:すでにカビが生えているかもしれない、と。
田中監査役:そのとおりです。だからこそ、あたりをつけて早期に発見する仕組みが必要です。まずは報告の受け方から変えてみませんか? 3つの観点で整理するのです。
