「今年は行けないと思う」毎年にぎやかだった夏が一変
「今年のお盆なんだけど、たぶんそっちには行けないと思う」
長女から電話でそう聞いたとき、洋子さん(仮名・74歳)は思わず「誰も?」と聞き返しました。
洋子さんは5年前に夫を亡くし、現在は一人暮らし。年金収入は月約18万円、預貯金は約1,800万円あります。夫が亡くなったあと、それまで暮らしていた一軒家を売却し、3年前に高齢者向けの分譲マンションへ移りました。
食堂や大浴場などの共用設備があり、日中はスタッフもいるため、一人で暮らすことへの不安は以前より少なくなりました。一方、洋子さんが毎年楽しみにしていたのが、夏休みと年末年始です。
県外で暮らす長女と長男が、それぞれ家族を連れて遊びに来るからです。
一軒家に住んでいたころのように全員を泊めることはできませんが、マンション近くのホテルを取り、昼間は洋子さんの部屋に集まるのが恒例になっていました。
ところが今年、高校生になった長女の息子は部活動の合宿が入り、夫婦もその予定に合わせることに。長男一家も、小学生の子どもの習い事と夫婦の仕事の都合が重なり、夏休み中にまとまった休みを取れないといいます。
「じゃあ、9月なら来られる?」
洋子さんが尋ねると、長女からは「まだ分からない。決まったら連絡するね」と返ってきました。
電話を切ったあと、洋子さんは冷蔵庫に貼っていた8月のカレンダーを見ました。毎年なら「XXたちが来る」と書き込んでいたお盆の数日間。今年は何もありません。
「誰かと約束していたわけでもないのに、あの時期は子どもたちが来るものだと思って空けていたんです」
7月に入ってから、同じマンションの知人に食事へ誘われたときも、「お盆は子どもたちが来るから」と断っていました。
来ないと分かってからも、すぐに別の予定を入れる気にはなれませんでした。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、65歳以上で親しくしている友人や仲間が「たくさんいる」「普通にいる」「少しいる」と答えた人は合わせて82.7%でした。一方、「ほとんどいない」「全くいない」は16.1%です。また、普段、人と話をする頻度については「毎日」が72.5%である一方、同居者がいない人では「1週間に1回未満・ほとんど話をしない」が14.7%となっています。
洋子さんにもマンション内で顔を合わせれば話す人はいました。ただ、一緒に食事へ行ったり、予定を合わせて出かけたりするほどの付き合いはほとんどありませんでした。
夫がいたころは夫婦で、夫を亡くしてからは子どもや孫と。「夏休みを誰と過ごすか」を、自分から考えることがなかったのです。
