「一人でこの家を維持する必要があるのか」71歳で考えたこと
「父さん、本当に家を売るつもりなの?」
長男の浩二さん(仮名・44歳)は、父の正雄さん(仮名・71歳)から住み替えの話を聞き、驚きました。
正雄さんは妻を4年前に亡くしてから一人暮らし。年金は月約16万円、預貯金は約1,500万円あります。30年以上前に購入した4LDKの戸建ては、住宅ローンを完済していました。
2人の子どもはすでに独立し、現在使っているのは1階のリビングと台所、寝室が中心です。2階にある子ども部屋は物置のようになっていました。
それでも掃除は必要です。
庭の草取りは夏になると何度も必要になり、植木の剪定は数年前から業者へ頼むようになりました。前年には給湯器を交換し、今後は外壁と屋根の補修も勧められています。
「家賃がないから持ち家のほうが得だと思ってたんだけどね。修理のことを考えると、次はどこにお金がかかるんだろうって思うようになったんだよ」
階段も以前ほど楽ではなくなりました。洗濯物を持って2階へ上がることはやめ、現在はほぼ1階だけで生活しています。
正雄さんが考え始めたのは、もう少し小さな賃貸住宅への住み替えでした。
民間の物件も調べましたが、駅やスーパーに近い1LDKや2DKでは、家賃と管理費を合わせて月7万円前後になるものもあります。
年金16万円から毎月支払うには負担が大きいと感じました。そんなとき、市の広報で公営住宅の募集を見つけました。
公営住宅は、公営住宅法に基づき、住宅に困窮する低額所得者に低廉な家賃で供給される住宅です。入居には所得などの要件があり、募集方法や単身入居の条件は自治体によって異なります。高齢者などについては、自治体の判断で優先入居などの取り扱いを行うこともできます。
正雄さんは市役所で相談し、自分が単身で申し込めることを確認しました。しかし、浩二さんは賛成しませんでした。
「せっかく家があるのに、なんで団地に移る必要があるんだよ。売らずにそのまま住めばいいじゃん」
正雄さんは、「お前はそう言うけど、この家を管理するのは俺だからな」と答えました。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、高齢者のいる世帯が住む住宅の81.6%は持ち家です。高齢期にも持ち家で暮らす世帯は多い一方、18.2%は借家に住んでいます。
正雄さんにとって問題だったのは、「持ち家か賃貸か」より、この先も一人で戸建てを維持できるかどうかでした。
