部屋の隅に置かれた「スポーツリュック」
その夜は、孫の合格を祝う小さなパーティが開かれました。テーブルに並んだのは、有名店のケータリング料理や、見たこともないおしゃれなオードブル。みどりさんが良かれと思って持ってきた煮物やお漬物は、食卓の隅にひっそりと置かれました。
みどりさんが「孫のために」と選んだスポーツリュックを渡すと、孫は「わあ、ありがとう!」と喜んでくれたものの、義理の娘はすかさずこう言いました。
「お義母さん、お気遣いありがとうございます。でも、この学校は指定の通学カバンが決まっていて、部活のリュックも学校指定のものを購入することになっているんです。せっかく選んでいただいたのに、すみません……。でも、普段使いで使わせていただきますね」
そう言って、リュックは部屋の隅へ運ばれていきました。さらに、無理をして包んだ「10万円のお祝い金」も、義理の娘はどこか申し訳なさそうに、しかし素っ気なく受け取りました。
「ありがとうございます。入学準備の制服代にさせていただきますね」
長男夫婦の会話からは「塾の春期講習」「海外研修の積立」「高額な指定品費用」といった、数十万円単位の教育費の話が、当たり前のように飛び交っていました。みどりさんが一生懸命、何かあったときのためにと貯めていた10万円は、都市部の中高一貫校での生活において、ほんの一瞬で消えていく「日常の経費」に過ぎないのだと痛感させられました。
総務省『家計調査報告書〔 家計収支編 〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、二人以上の勤労者世帯の実収入は月平均65万3,901円と前年に比べて名目2.8%増と増加傾向にあるものの、住居費や教育費の負担感が強まっています。一方で、月約13万円の実収入(うち9割前後が年金)で暮らす65歳以上の無職世帯は、毎月約3万円の不足分を貯蓄で補う状況にあり、日々の食費や光熱費の節約を最優先としています。両者の間には、動く金額の規模感やお金を使う価値観において、大きな乖離が生じています。
