(※写真はイメージです/PIXTA)

定年を機に住み慣れた土地を離れ、自然に近い場所で暮らそうと考える人もいます。しかし、60代は高齢の親の生活に変化が表れやすい時期でもあります。住まいや資金の準備が整っていても、離れて暮らす親の状況によって、夫婦の老後計画を見直さざるを得ないことがあります。

「最近、夜になると怖いの」母から届いた誕生日メッセージ

「誕生日おめでとう。65歳まで本当にお疲れさま」

 

誠司さん(仮名・65歳)の誕生日に、87歳の母・和枝さん(仮名)からLINEが届きました。その後には、もう一文続いていました。

 

「最近、夜になると一人でいるのが怖いの」

 

和枝さんは電車で約1時間の場所にある戸建てで一人暮らしをしています。夫を亡くしてから10年になりますが、買い物や通院は一人でできており、電話でも「何も困っていない」と話していました。

 

誠司さんはすぐに電話をかけました。

 

「何かあったの?」

 

「別に何もないわよ。ちょっと心細くなっただけ」

 

和枝さんは笑っていましたが、誠司さんには、その言葉が引っかかりました。

 

誠司さんは1ヵ月前に会社を退職したばかりです。妻の美佐子さん(仮名・64歳)と受け取る予定の年金は、合わせて月約21万円。退職金は約1,700万円で、現役時代からの預貯金も約2,000万円ありました。

 

夫婦は自宅を売却し、以前から気に入っていた地方都市へ移住する計画を進めていました。候補は海と山の両方に近く、駅から徒歩圏内にスーパーや診療所がある町です。

 

数回現地を訪れ、中古マンションの内見も済ませていました。購入価格は約1,600万円。自宅の売却代金で購入し、退職金は生活費や将来の介護費として残す予定でした。

 

「来月には契約しよう」

 

そう話していた矢先のメッセージでした。

 

週末、夫婦は和枝さんを訪ねました。すると、電気料金の督促状が未開封のまま置かれ、冷蔵庫には同じ総菜がいくつも入っていました。和枝さんは、前日に買い物へ行ったことも覚えていません。

 

「最近、支払いを忘れることがあるの?」

 

美佐子さんが尋ねると、和枝さんは不機嫌そうに答えました。

 

「たまたまよ。年寄り扱いしないで」

 

ただ、近所の人によると、和枝さんが夜に「誰かが庭にいる」と電話してきたり、同じことを何度も尋ねたりすることが増えていたといいます。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は、2025年の推計で男性18.3%、女性25.4%となっています。高齢者の一人暮らしが増えるなか、日常生活の変化を離れて暮らす家族が把握しにくいケースもあります。

 

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