「毎日1,000円くらいなら」退職後にできた新しい習慣
「今日もいつものですか?」
「お願いします」
午前10時過ぎ、店員とそんなやり取りを交わすのが、隆さん(仮名・69歳)の日課になっています。
隆さんは3年前、66歳で会社員生活を終えました。妻とは離婚しており、現在は一人暮らし。住宅ローンを完済したマンションに住み、年金は月約15万円、貯蓄は約1,300万円です。
退職直後は、「これからはお金を使わなくなるだろう」と考えていました。スーツも買わない。通勤定期もいらない。職場の付き合いもなくなります。
ところが、しばらくすると別の変化が起きました。
「朝起きて、ご飯を食べても、まだ8時なんですよ。会社に行っていたころは考えなかったんですけど、そこから一日が長いんです」
そこで始めたのが朝の散歩でした。
30分ほど歩き、帰りに近所の喫茶店へ寄る。コーヒーを飲みながら新聞を読み、11時ごろに帰宅します。最初は週に2、3回だったものが、いつしかほぼ毎日の習慣になりました。
コーヒーだけなら500円ほど。ただ、遅くなった日はトーストを追加し、ときにはそのままランチを注文します。
「高いものを買っている感覚はなかったですね。今日は700円、今日は1,200円というくらい。平均すれば1日1,000円くらいだろうと思っていました」
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、65歳以上で「ほとんど毎日」外出する人は55.4%。外出の主な目的として「散歩」を挙げた人は43.4%、「趣味・余暇・社会活動」は34.3%でした。高齢期にも、日常的に外へ出て過ごす人は少なくありません。
隆さん自身、喫茶店通いを「ぜいたく」とは考えていませんでした。
ところがある月、クレジットカードの利用明細を見ていて、飲食店への支払いが思っていたより多いことに気づきます。そこで1ヵ月だけ、現金で払った分も含めて家計簿につけてみることにしました。
結果は、2万8,600円。
「え、こんなに使ってるの?」
思わず、もう一度計算したそうです。
コーヒーだけの日もあれば、昼食まで食べて1,500円近くになる日もあります。月3万円近いペースなら、単純計算で年間30万円を超えます。
1回ごとの金額しか見ていなかった隆さんが、初めて「1年分」で支出を見るようになった瞬間でした。
