この半年は「戦争の半年」でもあったが…
ここで見落としてはならないのは、この上半期は平時の半年ではなく、2026年2月28日に始まったイラン攻撃を挟んだ半年です。前回の記事『ドバイ不動産価格とイラン攻撃の相関…2026年上半期データが示す市場の実態とリスク』では、ドバイ市場がこの131日をどう通過したかを検証しました。ドバイの売買額は前年同期比▲12.3%(それでも史上2番目の水準)で、価格指数の下落はピーク比▲2.6%でした。
同じ戦争の半年に、アブダビの売買額は+163.7%でした。同じ国の、車で1時間半しか離れていない2つの首長国でもまったく違う状況が起こりました。
この対比をどう読むか。筆者は「戦争がアブダビを押し上げた」と単純化するつもりはありません。半期の合計データからは、伸びのどこまでが戦前からの基調で、どこからが有事の資金移動なのかを切り分けられないからです。
ただ、少なくとも次のことは言えます。有事に動く資金は、消えるのではなく、より安全と判断された場所へ移る。UAEは戦争の傍観者ではなく、上半期に弾道ミサイル537発・ドローン2,256機を迎撃した当事国でしたが、それでも市場機能を維持しました。そのUAEの中で、政府の資本力と統治の安定を最も体現するのが首都アブダビです。FDIが約4.1倍になり、投資国籍が82カ国から116カ国へ広がったという事実は、この解釈と整合します。
そして、より雄弁なのは政府自身の行動でした。2026年5月14日、アブダビ文化観光局は、米スフィア・エンターテインメント社と共同で、建設費17億ドル規模の「スフィア・アブダビ」をヤス島に建設すると発表しています。5月14日といえば、4月7日の停戦が延長交渉の最中にあり、恒久停戦(6月19日)はまだ成立していない時期です。戦時下に、新たな巨額投資を発表した。ディズニーも2026年2月の決算報告で、アブダビ計画の戦略的な位置づけに変更はないと明言しています。米CNNはこの状況を、アブダビが戦争にもかかわらず観光に「倍賭け」していると報じました。
もっとも、無傷だったわけではありません。打撃を受けたのは観光でした。開戦前日に1日約250便が到着していたザイード国際空港は、5月下旬には1日約200便程度まで減少し、エティハド航空の稼働も8割程度にとどまりました。前回述べたドバイと同じく、実害は売買市場ではなく観光と、それを需要源とする短期賃貸に出ています。この点は、ホテルアパートメントや短期賃貸を前提にした投資を検討する場合、2026年内は保守的に見るべき材料です。
人口流入と雇用の拡大も「住宅需要」の土台に
「世界有数の産油国だから資金がある」という説明だけでは、現在のアブダビは理解できません。
2025年第3四半期の実質GDPは前年同期比7.7%増となり、四半期として過去最高を記録しました。非石油部門も7.6%増え、GDP全体の54%を占めています。製造、金融、建設、不動産、物流などへ成長源が広がっています。
人口流入と雇用の拡大も、住宅需要の土台です。ADRECの2025年通期市場レポートは、人口と雇用の増加を需要の主要因として位置づけています。加えて、金融など非石油産業の成長が、居住需要を特定業種だけに依存しにくい構造へ変えています。
さらに、アブダビ国際金融センター(ADGM)の拡大、文化施設の集積、観光開発が、異なる層の居住需要を作っています。サディヤット島ではルーブル・アブダビを中心に、文化、教育、高級住宅が一体で整備されています。そしてヤス島では、いま2つの巨大プロジェクトが同時に動いています。
