(※写真はイメージです/PIXTA)

ドバイの目を見張るような建設ブームは、しばしば「砂上の楼閣」あるいは「バブル」と評されます。確かに2008年の金融危機時には不動産バブルの崩壊の危機を経験しましたが、現在の建設ラッシュは持続可能性が高いと考えられます。実情を見ていきましょう。世界をフィールドに活躍する弁護士・森和孝氏が、ドバイの最新事情を解説します。

現在の建設ブームを支える「急激な人口増」と「企業実需」

現在のドバイの建設ブームは、投機的需要だけでなく、急増する人口と企業の実需に支えられています。不動産コンサルティング会社のKnight Frank社の調査によれば、ドバイの住宅市場は2024年に力強い成長を続け、平均販売価格は前年比20%の大幅上昇を記録しています。また、賃料も前年比約19%上昇し、とくにヴィラの価格上昇率はアパートメントを上回る傾向が見られます。

 

住宅供給が人口増加に追いついていないという現実があり、その需給ギャップが不動産価格と建設活動を押し上げているのです。取引件数は過去最高を記録し、その44%が二次市場(再販物件)となっています。とくに注目すべきは賃貸の粗利回りが6.7%に達していることで、ドバイランド、メイダン、インターナショナルシティの各地域では30%台後半という驚異的な賃料上昇率を記録しています。

 

人口予測と住宅供給の数値を比較すると、今後10年間で約20万~30万戸の新規住宅供給が最低でも必要とされており、現在の建設ペースは決して過剰ではないと評価できます。とくに手頃な価格のヴィラやタウンハウスへの需要が依然として堅調であり、2025年後半には新規供給の増加により価格上昇は緩和傾向となるものの、市場の基本的な勢いは持続すると予測されています。

制度的改善とリスク管理の強化

2008年の危機後、ドバイ政府は不動産市場の規制を大幅に強化しました。RERA(Real Estate Regulatory Authority=不動産規制庁)の設立、開発業者に対するエスクローアカウント義務化、投資家保護法の整備など、制度的なセーフガードが充実しています。デベロッパーはプロジェクトをRERAに登録することが義務づけられ、プロジェクトコストの少なくとも70%を特別なエスクローアカウントに預けることが要求されています。

 

このエスクローアカウント制度は建設の進捗に応じて資金が引き出される仕組みで、投資家の資金を保護する重要な仕組みとなっています。

 

住宅ローン規制に関しては、2014年にUAE中央銀行が住宅ローン規制を導入し、ローン・トゥ・バリュー(LTV)比率を引き下げました。外国人購入者の場合、500万AED以下の物件の初回購入では最大75%まで(つまり25%の頭金が必要)、500万AEDを超える物件では65%まで(35%の頭金が必要)というLTV上限が設けられました。

 

また、債務負担率(DBR:Debt Burden Ratio)についても規制があり、UAE中央銀行の規則により、住宅ローンを含むすべての債務の返済額は所得の50%を超えてはならないと定められています。これにより、過剰な借入による投機的購入が抑制されています。

国際的な機関投資家や富裕層が多数参入

2008年危機前は、投機的な短期投資家や地元デベロッパーの借入に依存した開発が多かったのに対し、現在は国際的な機関投資家や長期的視野を持つ富裕層の参入が増えています。また、政府系デベロッパーも財務規律を強化し、より持続可能な開発計画を立てるようになりました。

 

2024年のドバイ不動産取引総額は1,400億ドル(約20兆円)に達し、取引件数は約18万件でした(DXB Interact)。取引件数が1年で27%増加したことが顕著です。さらに、売上高は2023年と比較して36%増加しました。投資家の国籍も多様化しており、英国、インド、ロシアの投資家の割合が高く、中国、ドイツ、UAEが続き、さまざまな国からの資金流入が市場の安定性を高めています。

シンガポール・香港と比較すると…?

シンガポールと香港は、いずれも限られた国土と厳しい土地供給制約のため、住宅価格の高騰と手頃な価格帯の住宅不足という深刻な課題に直面しています。シンガポールの平均的なコンドミニアム価格は1平方メートル当たり約1万5,000~3万シンガポールドル(約150万〜300万円)、香港では1平方メートル当たり約10万~25万香港ドル(約200万~500万円)という水準に達しています。

 

これに対し、ドバイは、1平方メートル当たり約1万~3万AED(約40万~120万円)と、シンガポールの半分以下、香港の5分の1から10分の1程度の水準にとどまっています。ドバイの高級なイメージと比較しても、この価格差は投資機会としての大きな魅力となっています。

 

ドバイ政府は潤沢な土地資源を戦略的に管理し、段階的に市場に供給することで価格の安定的上昇を実現しています。とくにウォーターフロントや高級住宅地区では、供給を慎重にコントロールすることで年20%以上の価格上昇を記録しました。加えて6~8%という高い賃貸利回りは、シンガポール(2~4%)や香港(2~3%)と比較して投資魅力を大きく高めています。

 

また、ドバイでは外国人でも土地を含めた完全な所有権取得が可能である一方、シンガポールではコンドミニアムのみに所有権が限定され、香港では政治的不安定さから価格の安定性が低下しています。

 

このように、ドバイの不動産市場は厳格な制度的枠組みで管理され、市場の過半数を占める多様な国際投資家層に支持されています。かつての投機的バブルとは根本的に性質が異なり、戦略的な土地供給管理と政府の長期的なビジョンにより、持続可能な成長と価値の上昇を実現する条件が整っているといえるでしょう。

原油価格との非連動性の明確化

従来、ドバイの不動産市場は原油価格(=中東経済の景況感)と密接に連動しているとされていました。実際、2008年や2014年には、原油価格の急落とともに不動産価格が急落しました。そのため「原油価格=ドバイ不動産の先行指標」として投資判断がなされる場面も多く見られたのです。

 

 出典:KnightFrank."DUBAI’S RESIDENTIAL PROPERTY CYCLE"(https://www.knightfrank.ae/blog/2023/05/24/dubais-residential-property-cycle)
[図表]ドバイ不動産の平均取引価格出典:KnightFrank "DUBAI’S RESIDENTIAL PROPERTY CYCLE"(https://www.knightfrank.ae/blog/2023/05/24/dubais-residential-property-cycle

 

しかし、2022年以降のデータを見ると、ブレント原油価格が2022年中盤以降に1バレルあたり100ドルから急落し続けている(2025年5月12日時点では約63ドル)一方で、ドバイの不動産価格、とりわけプライムエリア(高級住宅地)の価格は着実に上昇を続けています。

 

このデカップリング(非連動)からは、ドバイの不動産市場が原油価格や中東のマクロ経済指標に左右される脆弱なものではなく、実需とグローバル資本の流入を基盤とする独立性の高い市場へと変化したことが見て取れます。これまでの「原油が下がれば不動産バブルが弾ける」といった単純なロジックではなく、「実需の強さ(居住・投資目的)、制度的な安定性、人口増加と国際資本の多様化」といった構造的強さに裏打ちされた市場へ変化したといえるでしょう。

構造転換を遂げたドバイ不動産市場の現在地

かつてのドバイ不動産は「投機的バブル」や「資源依存型経済の副産物」といった評価を受けてきましたが、現在は実需に基づいた開発需要、制度的な整備と規制強化、多様な資本流入源、ほかの主要都市(シンガポール・香港)よりも魅力的な価格と利回りといった複数の要因による、市場の持続性と堅牢性に支えられています。

 

また、近年の原油価格との非連動という現象は、ドバイ不動産市場が独立したグローバル資産市場へ変化を遂げつつある証左であり、実際に「生活拠点」「資産形成先」としてドバイを選ぶ投資家も増加しています。

 

今後の市場動向を読むには、原油価格や中東全体の経済状況だけでなく、ドバイ特有の人口動態、国際投資動向、制度設計の動きを総合的に分析する必要があるでしょう。

 

 

森 和孝
Eminence Luxe(ドバイ不動産仲介会社)Founder/CEO
One Asia Lawyers 国際弁護士(UAE法、シンガポール外国法、日本法)

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